ことわざの意味
人から疑いをかけられるような、紛らわしい行いは避けるべきであるという教え。 スモモ(李)の木の下で冠(帽子)をかぶり直そうとして手を上げると、スモモの実を盗もうとしているのではないかと疑われることから。
用例
- 取引先の接待とはいえ、高額な贈り物を個人で受け取るのは「李下に冠を正さず」で、周囲の誤解を招く恐れがある。
- テスト中に消しゴムを落としても、自分で拾おうとするとカンニングを疑われるかもしれない。「李下に冠を正さず」、手を挙げて先生に拾ってもらおう。
- 彼は金庫番をしているので、「李下に冠を正さず」を徹底し、一人きりでお金を扱う状況を作らないようにしている。
ことわざの由来
中国の古い詩である古楽府(こがふ)の『君子行(くんしこう)』にある一節が由来です。 原文は「瓜田不納履、李下不正冠(瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず)」です。 これは、「瓜(うり)畑の中で靴が脱げても、かがんで履き直してはいけない(瓜を盗むと疑われる)。李(すもも)の木の下で冠が曲がっても、手を上げて直してはいけない(実を盗むと疑われる)」という意味です。 君子(立派な人)は、未然に疑いを避ける用心深さを持つべきであると説いています。
類似のことわざ
- 瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず: 「李下に冠を正さず」と対句になっている言葉で、意味は全く同じ。瓜畑で靴を履き直すと、瓜泥棒と間違われるのでやめるべきだということ。
- 君子(くんし)危(あや)うきに近寄らず: 教養や徳のある人は、危険な場所や、災いを招きそうな状況には初めから近づかないということ。
- 疑わしきは罰せず: (法的な文脈ですが)疑わしいだけでは処罰できないという原則。このことわざとは逆に「疑われる側の権利」を守る言葉だが、疑わしい状況そのものを扱う点で関連する。
英語の類似のことわざ
- Caesar’s wife must be above suspicion.(カエサルの妻は、疑われるごときことがあってはならない/公人の立場にある者は、不正の事実がないだけでなく、疑いを招くような振る舞いすらしてはならない)
- Avoid the appearance of evil.(悪と見えるものは避けよ/新約聖書由来)
ことわざを使った文学作品
- 古楽府『君子行』: このことわざの出典となった詩です。「君子防未然(君子は未然に防ぎ)、不処嫌疑間(嫌疑の間におらず)」と続き、疑わしい立場に身を置かないことの重要性を説いています。