136.【か】 『管鮑(かんぽう)の交(まじ)わり』 (2002/07/08)
『管鮑の交わり』
深く理解し合った親密な交わり。仲睦(むつ)まじい交際。
類:●水魚の交わり断金(だんきん)の契り莫逆(ばくげき)の交わり刎頚(ふんけい)の交わり
故事:列子−力命」・「史記−管晏列伝」・杜甫の詩など 中国春秋時代、斉の管仲と鮑叔とは非常に仲が良く、いつも親密に交わった。
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八兵衛は四郎に「親方の役」を仕込むのだといって張り切っていた。一方、熊五郎はそんな2人を呆れて見守りながら、内心では二郎が来なければ良いと願っていた。
当の四郎は、飽くまでも事実を伝えるべきだと言い張っており、芝居の稽古などする積もりは更々ないようだった。

>八:なあ四郎、おいら前から聞いてみたかったんだけどよ、干瓢(かんぴょう)ってのは、あの長さに育つまでどのくらい掛かるんだ?
>四:八兄い、なんか勘違いしちゃいませんか?
>八:何をだ? ・・・それによ、あれってどこが茎でどこが葉っぱなんだ?
>四:あのですね、幾らなんでもあんな紐みたいになって生えてくる草なんかありませんよ。
>八:それじゃあ、木なのか?
>四:そうじゃないんですよ。干瓢っていうのは、実の果肉なんです。瓢箪(ひょうたん)とか糸瓜(へちま)の仲間だと思ってください。八兄いが知ってるような形になるのは乾かした後なんです。
>八:そうなのか? じゃあ、乾かした後に切り揃(そろ)えるんだな? どおりでな。虫にも食われてねえし、幅も丈も揃ってるから可笑しいとは思ってたんだ。
>三:流石(さすが)の八兄いでも、知らねえ食い物があるってことでやすね。
>熊:鮃(ひらめ)の縁側だって知らなかったじゃねえか。
>八:あれは、不意打ちを食らったのよ。いつものおいらなら、すぐにぴいんと来てた筈だぜ。
>熊:負け惜しみだろ?
>八:そんなんじゃねえや。一遍でも食ったことがあれば、大方は覚えちまうってことよ。
>熊:じゃあ、干瓢はどうなんだ? 食ったことなら何度もあるだろ?
>八:冗談じゃねえ。生の瓢箪なんか、一度だって食ったことはねえ。
>熊:また屁理屈を・・・

>八:それでよ、四郎。干瓢の実が取れるのはいつなんだ?
>四:収穫は葉月(8月=現在の9月中旬頃)の終わり頃です。今頃が一番手の掛からない時期ですね。
>八:ってことは、お前ぇの兄(あん)ちゃんは、来るんだったら今のうちってことなんじゃねえのか?
>四:そうなんです。おいらもそれが気に掛かってるんです。・・・真逆とは思うんですが、おいらたちの後を追うようにして出掛けたりしちゃいないでしょうね。
>熊:二郎兄ちゃんってのは、そんなにせっかちな人なのか?
>四:せっかちっていうよりも、思い出したように突飛なことをするような質(たち)なんです。親に内緒で出掛けて2、3日戻らないなんてこともしょっちゅうでした。
>八:そりゃあ、せっかちじゃなくって、身勝手だな。
>四:もしかして、明日辺りひょっこり現われるかもしれません。
>熊:止せよ。「
噂をすれば影が射す」だ。本当に来たらどうするんだ。
>八:だから、四郎親方って呼んでやりゃあ良いのよ。なんなら本気で練習してみるか? 今日の午後の間中は「四郎親方」って呼んで、「です」とか「ます」とかを付けて喋ること。
>四:止してくださいよ。「です」とかを付けられただけでも、居(い)た堪(たま)れなくなっちゃいますから。

八兵衛が四郎の頼みなど聞く道理がない。
ことある毎(ごと)に「四郎親方寸法はこんなもんで良いですかい?」だの、「肩でもお揉みいたしましょうか?」だのと言って、四郎をからかい続けた。

>源:なあ熊、八の野郎、いったいどうしたってんだ?
>熊:親方が、八兵衛の道楽を許しちまったから、こんなことになってるんじゃねえですか。
>源:八の道楽ってなんだ?
>熊:親方、真逆(まさか)覚えてねえってんですかい? ほら、四郎の1歳違いの兄ちゃんってのが、四郎のことを、弟子を抱える親方だって勘違いしたって話ですよ。
>源:そんな話、されてたっけ?
>熊:昨日のことですよ。親方は「まあ良いんじゃねえか」って言ったんですぜ。
>源:俺がか? そうか。そう言っちまったんじゃ仕方ねえな。まあ、大目に見といてやるか。
>熊:良いんですかい? 四郎の兄ちゃんが本当に来ちまったらどうするんです?
>源:そんなの、本当のことを正直に言うのが一番良いに決まってんじゃねえか。そうだろ?
>熊:昨日のうちにそう言って貰いたかったですよ。

懲りるということを知らない八兵衛は、「だるま」で飲んでいる最中まで、「四郎親方」と呼ぶものだから、お夏が聞き付けて、訳を尋ねにきた。

>夏:ねえ八兵衛さん、四郎ちゃんって、いつの間に親方になったのかしら?
>八:やあ、お夏ちゃん。あ、そうだ。お夏ちゃん、四郎親方のお内儀(かみ)さんの役をやる気はねえかい?
>夏:何それ? お内儀さんの役って、どういうこと?
>八:実はな、明日か明後日に、四郎の兄ちゃんが田舎から出て来るんだ。
>夏:だって、四郎ちゃんたち、ついこの間、田舎に帰ってたんでしょ? 何かあったの?
>四:はあ。兄ちゃんがおいらのことを、親方だと勘違いしちゃったんです。一黒屋のご隠居さんも与太郎さんも、本当のことを教えなくても構わないんじゃないかって言うもんで、放っておいたんですが・・・
>夏:来るっていうの? あら、そう。ふうん。
>熊:お夏坊、お前ぇ真逆、また変な遊び心を出したりしねえだろうな。
>夏:何よ熊お兄ちゃん。あたしがそんな、お気楽なお調子者に見えて?
>熊:ああ。見える。
>夏:心外ね。・・・でも、面白そうな話よね。お咲ちゃんには話した?
>熊:止せよ。
>八:熊の野郎、お咲坊を四郎に渡すのが嫌なんだとよ。仮りのことだって分かっててもな。
>夏:まあ。お熱いこと。
>熊:五月蝿(うるせ)え。・・・そんなことより、お夏坊も駄目だぞ。
>夏:どうして駄目なのよ。さてはお得意の「まだ子供だから」って言うんでしょ?
>熊:決まってるじゃねえか、何が親方のお内儀さんだよ。ばれちまうに決まってるじゃねえか。なあ? 四郎。
>四:見え透き過ぎです。

翌日の昼過ぎ、源五郎の家に二郎が現れた。
二郎には連れが2人あった。

>二:もし。御免くだせえ。
>あや:はい? ・・・あら、もしかして、四郎さんのお兄さんじゃありませんか?
>二:へい。二郎ってもんでごぜえます。あの、四郎はこちらでご厄介(やっかい)になってるんでごぜえますよね?
>あや:はい。今は現場の方へ行ってらっしゃいます。今日は早目に
片付くそうですから、もう一時(いっとき)もしたらお戻りになると思います。
>二:そうでやんすか。・・・あの、働いてるとこをそっと見てきてえんでやんすが、どう行けば良うございましょう?
>あや:そっとですか? ええ、構わないと思いますが、少しお休みになっていってくださいませ。そんな遠いところじゃありませんから、お茶でもどうぞ。
>二:こいつは恐れ入りやす。・・・あ、申し遅れやんしたが、連れのもんは吾作と、その妹のおよねでごぜえます。・・・おい、ご挨拶しろ。
>吾:おらは吾作と申しやして、二郎や四郎の家(うち)の直(す)ぐ隣に住んでるもんです。
>よね:よねです。・・・あの、もしや、四郎ちゃんのお嫁さん、なんてことはねえですよね?
>あや:わたしがですか? いいえ。わたしはあやっていって、ここの源五郎の女房ですよ。あそこで、お昼寝してるのが娘の静(しずか)です。・・・あなた、もしかして?
>よね:もし、四郎ちゃんが良いって言うんなら、お嫁に貰ってもらいてえと・・・
>あや:まあ。お似合い。
>よね:そんなこと・・・

>二:四郎が家をおん出ていくなんて言い出さなければもうとっくに一緒になって、仲良く干瓢作りしてるとこなんでやんすがね。まったく、身勝手な野郎でして。
>吾:四郎には言ってなかったんでごぜえますが、二郎とおらの間で随分前(めえ)から決めてたことなんでやんす。・・・というより、およねの奴の頼みってのがほんとのとこなんですけんど。
>よね:兄ちゃんったら、そったなこと・・・
>二:吾作が、「約束を守らねえならおらとお前ぇの付き合いもこれっきりだ」なんてこと言うもんで。
>あや:まあ。随分気を許してらっしゃるんですね。羨(うらや)ましいくらい。
>二:
腐れ縁でやんすよ。

>あや:四郎さんの話だと、親方になって弟子を持つ身だと思い込まれたってことですけど、お芝居だったんですか?
>二:たった1年しか違いのねえ兄弟でやんすから、あいつがそったなご立派になれる訳がねえのは知っとります。あんなむっつり男を使って下すってる親方さんにどうしてもお礼が言いたくて来ちまったんでやんす。それと、吾作との約束のこともありやしたんで、ほんとに真面目にやってるのかどうか、この目で確かめてから決めようってことにしたんでやんす。
>あや:優しいお兄さんがいて良いわね、四郎さんは。
>二:そんな、勿体無え。親方のお内儀さんからそんな風に言われると居た堪れねえです。
>あや:その言い方ったら、四郎さんとそっくり。
>二:へ? そうでやんすか? こいつは参りやした。・・・んでも、ほんとのとこは飽くまでも、吾作から勘当されたくねえからなんでやんすから、あんまり誉(ほ)められたもんじゃねえんですけどね。
>あや:まあ、ご謙遜。・・・でも、困ったわねえ。
>吾:やっぱりなんか問題があるんでやんすか?
>あや:いえ違うんですよ。四郎さんとおよねさんのことは諸手を挙げて賛成なんですけど、まだ独り身の兄弟子がいましてね、こういうことになると、やっかむんじゃないかと、ちょっと心配なんです。

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