17.【あ】  『雨垂(あまだ)れ石(いし)を穿(うが)つ』 (2000/03/06)
『雨垂れ石を穿つ』
一定の場所に落ちる雨だれは、長い間に下にある石に穴を穿つという意味から、小さな力でも根気よく続ければ成功することの喩え。
類:●思う念力岩をも通す●石に立つ矢一念天に通ず蟻の思いも天に昇る●Constant dropping wears away the stone. 水も不断に落ちれば、石をも磨り減らす<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典
出典:「漢書−枚乗伝」「泰山之溜穿石、単極之[糸+更]断幹。水非石之[金+占]、索非木之鋸、漸靡使之然也」
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>あや:悲しくないと言ったら嘘になりますけど。天災みたいなものだと思って忘れることにしたんです。
>八:やっぱり良く出来たお人だねえ。おい熊、聞いたか? 並の人じゃあこうは言えねえよな。
>熊:まったくだ。こんな良い人を親方はいつまで放って置くつもりなのかねえ?
>あや:一応、お義父(とう)さんたちの手前もありますから、一周忌を済ませるまではこのまま穏(おだ)やかにしていたいと思うんです。
>八:失礼なんですが、その一周忌というのはいつなんです?
>あや:桜の咲く頃です。
>八:なんだ、もうすぐじゃありませんか。
>熊:そいつが済んだらどうなさるおつもりで?
>あや:さあねえ、考えないようにしてるんです。甚兵衛さんは親方との縁談を請けろと仰(おっしゃ)りますが、どうなんでしょうかねえ? 人の生活なんて、ちょっとしたことでがらっと変わってしまいますからねえ。
>八:さっき大家の爺さんと話してたのはそのことですか?
>あや:ええ、そういうことでした。・・・確かに、その気はあるんですが、人様から奨(すす)められますとねえ。わたしにも少しばかり臍(へそ)の曲がったところがありまして、誰かに敷(し)いて貰った道を進むのは釈然(しゃくぜん)としませんでね。・・・案外、親方のところへ押し掛けてしまうくらいの方が、わたしらしいのかも知れませんけど。

>熊:そいつぁあ良い。やりましょう。
>八:おいらも混ぜて呉れよな。
>あや:そんなこと言ってて良いんですか? 親方にも事情っていうものがお在りでしょう?
>八:なあに構うことはありませんて。こんな良い話、後にも先にも聞いたことありませんや。
>熊:そのぐらいしないと分からねえんですよ、あの石頭は。
>あや:自分が口にしてしまった端(はし)たない考えですが、お二人が乗ってくださるんでしたら、言い出した者としての責任は取ります。宜しくお付き合いくださいましね。
>熊:それじゃあ、目処(めど)は弥生三月の初めということで。
>あや:はい。
>八:こりゃ益々面白くなってきやがったぞ。

他人の知らないことを知っている優越感も然(さ)ることながら、策謀(さくぼう)に携(たずさ)わっている緊迫感は、心をさざめかせる。それが目出度いことであれば尚更(なおさら)である。
八兵衛と熊五郎は居ても立ってもいられず、朝餉(あさげ)もそこそこに年始廻りに出掛けた。年始廻りといっても行くところは親方のところしかない。
お互い素知らぬ振りを決め込もうな、という約束を交(か)わした上で、棟梁源蔵の家へ向かった。

棟梁の家には既に五六蔵たち3人が来ていて、お屠蘇(とそ)で顔を赤くしていた。

>熊:お前たち何時(いつ)から来てるんだ?
>五六:へい、巽の刻(9時ころ)あたりからでさ。
>八:そんな朝っぱらからじゃ親方に迷惑だろう。
>五六:分かってくださいよ八兄い、まだ見習いで実入りも少ねえから、今日の朝餉の一杯さえ勿体(もったい)ねえんですよ。
>四郎:男所帯(おとこじょたい)に蛆(うじ)が湧くって言うじゃありませんか、五六蔵兄貴のところじゃむさっ苦しくて居られたもんじゃありませんよ。
>三吉:お節(せち)料理なんてもう何年も食ってねえんですから、正月くらい堪忍(かんにん)してくださいよ。
>八:親方はどうしていなさるんだ?
>五六:へい。ご親戚の方から「嫁はどうしたんだ」って、あんまり同じことを聞かれるんで、「散歩してくる」って出て行きなさいやした。
>熊:それで、お前ぇたちは誰もお供(とも)しなかったのか? この不孝者どもが。
>四:寒いときには火鉢にお酒。長生きの秘訣(ひけつ)だって言うじゃないですか。
>熊:この戯(たわ)けが。例えばな、親方の行く道が闇夜だったら提灯を照らすくらいじゃねえと良い弟子にはなれねえぞ。
>五六:そいつぁあそうなんですけどね、なんだか親方独(ひと)りで出掛けたそうな顔をしてやしたんで。

>八:おい、熊。あれじゃねえのか? もしかすると親方、町中を歩いてたらお目当てに会えるかも知れねえなんて考えてるんじゃねえのか?
>熊:有り得る。こりゃ相当いかれてるぞ。
>五六:お目当てって言いますと、やっぱりあれですかい?
>八:決まってんじゃねえかあれだよ。
>四:うらぶれた場末(ばすえ)の飲み屋に咲く花一輪、ですか?
>三:町中をぶらついたって、会えるわきゃないのにねえ。
>熊:そいつぁあ分からねえぞ。会いてえ会いてえって願ってると、ばったり会えたりするもんじゃねえのか?
>八:ときには仏さまも乙(おつ)なことをするからな。
>四:神は何でもお見通し、ですね。
>五六:やい、四郎。仏様なのか神様なのか、はっきりしろい。
>熊:どっちだって良いってことよ、事が上手(うま)く運べばな。
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