204.【さ】 『酒(さけ)は百薬(ひゃくやく)の長(ちょう)』 (2003/10/27)
『酒は百薬の長』
酒は、適量を飲めば、多くの薬以上に健康のために良い。
類:●Good wine makes [engenders] good blood.(良い酒は良い血を作る)<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典
反:●酒は諸悪の元
出典:「漢書−食貨志・下」 「夫鹽食肴之將、酒百薬之長、嘉會之好」 王莽(おうもう)が施行した法令の1つ「六管」<6品目の専売(専有)制度>の詔(みことのり)にあった言葉。 「そもそも塩は食物に最も肝心なもので、酒は百薬の長、目出度い会合で嗜(たしな)む良きものである。鉄は農耕の基本となるものであり、名山や大きな湖沼(こしょう)は、狩猟や採集、漁業の豊饒(ほうじょう)な倉庫なのである。」
出典:漢書(かんじょ) 中国の歴史書。正史の一つ。100巻。後漢の班固(はんこ)著。高祖から平帝までの231年間の史実を紀伝体で記(しる)した書。司馬遷の「史記」と共に中国の史書を代表する。「前漢書」。
人物:王莽(おうもう) 中国、前漢末期の政治家。新の建設者。前45〜後23。字は巨君。前漢の元帝の皇后(王太后)の甥。自ら擁立した平帝を毒殺し、やがて帝位を得、国号を「新」と改める。政策の失敗、匈奴の侵入などにより財政が逼迫し「赤眉の乱」を招き、漢の劉秀(後漢の光武帝)に攻められ、長安入城の混乱の中、商人に殺された。在位15年(8〜23)。
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藤木嘉剛(よしたけ)は、額に大きなたん瘤(こぶ)を作って、道場の隅に転がされていた。
剣術の「け」の字も知らない熊五郎に立て続けに2本取られた上に、足を縺(もつ)れさせて、額(ひたい)から倒れ込んだのだ。

>熊:あれまあ、自滅しちまいやがった。・・・それにしても、お頭(つむ)ってのは我知(われし)らずのうちに庇(かば)うもんじゃねえのか?
>猪:それほど鈍(にぶ)いんだよ。
>熊:本当にお武家様なのか? 役者の倅(せがれ)だって、もう少し骨があるぜ。
>猪:大方、お茶とかお花とかでもやってたんだろうよ。
>熊:土台(どだい)、武道なんか向いてなかったってこったな。・・・これに懲(こ)りて、きっぱり諦(あきら)めるだろうよ。
>猪:そうだと良いんだがな。
>熊:また来るっていうのか?
>猪:親から「行け」と言われたら来るしかなかろう。そうでないんなら、初日だけのことで収まってたよ。
>熊:ある意味では、良い根性してるんじゃねえか?
>猪:そうかも知れんが、「見返してやる」とか「負けるもんか」とかというのが全くない。そういうところが髪筋ほども見えねえってのはどういうことだ? ・・・一体(いったい)
どう育てたら、こういう風になるんだかな?
>熊:親父のせいなのか、爺(じい)さんのせいなのかだな。まったく、お奉行様が聞いて呆れるな。
>猪:そして、それに輪を掛けて本人にやる気がねえ。こりゃあ、育て方も、育ち方も間違ったってとこだな。
>熊:救いようがねえじゃねえか。八の野郎の方が、よっぽど正面(まとも)に生きてるな。
>猪:飯と女のことだけに一所懸命だもんな。・・・だがな、そういう簡単なことの筈じゃねえのか、生きてくってことはよ。

気が付くと、もう疾(と)うに昼の時間は過ぎていた。

>熊:いけねえ、おいら戻らなきゃ。親方にどやし付けられちまう。
>猪:つまらねえことさせちまって、済まなかったな。
>熊:逆恨みなんかされねえだろうな?
>猪:さあな。・・・唯(ただ)、子供の喧嘩に親や爺さんが出てきやしねえだろ。「立場が怪(あや)しくなってきている」ってったって、奉行は奉行なんだからな。
>熊:そうだな。大工なんか相手にしてちゃ、奉行の名が朽(く)ちるってもんだもんな。・・・一安心だな。
>猪:今夜は俺も早めに行くとするよ。
>熊:ああ。鹿之助も来るそうだから、久し振りに昔の話でもしようぜ。
>猪:4人が集まるなんて、初めてじゃねえかな?
>熊:そうだな。もう15年くらい経(た)っちまうのかぁ。
>猪:ああ。・・・なあ、餞別(せんべつ)はどんなもんが良いんだろうな? やっぱり路銀(ろぎん)の足(た)しかな?
>熊:なあに。路銀の方はお上(かみ)がどうとでもして呉れる。
>猪:お上だと? いまどきそんな気の利く人がいたのか?
>熊:その何十倍もの銭を取り返してやったんだ。安いもんよ。
>猪:なんだと? お前ぇたち一体何をやらかしたんだ?
>熊:後で聞かしてやるよ。・・・じゃあ、「だるま」でな。

熊五郎は慌(あわ)てて現場へ取って返した。
が、源五郎の機嫌(きげん)は、気持ち悪いくらい良かった。

>熊:お、遅くなりやした。相(あい)済(す)いやせん。
>源:おう、ご苦労だったな。お前ぇ、飯も食ってねえだろ? 俺の握(にぎ)り飯の余りで良かったら食え。仕事はそれからで良いぞ。
>熊:へ? へい、どうも。
>源:ほれ、食え。
>熊:余りって割には殆ど手を付けてねえじゃねえですか? 良いんですかい?
>源:良いんだ。今日はお夏ちゃんの餞別の会なんだろ? 残りの仕事もそこそこで良いぞ。今日は早めに切り上げる
>熊:へい。有難う御座いやす。

握り飯を薬缶(やかん)の水で流し込んで、熊五郎は八兵衛のところへ経緯(いきさつ)を聞きにいった。

>八:さっき姐(あね)さんが、静(しずか)嬢ちゃんと源太坊を連れて、様子見に来たのさ。
>熊:それで?
>八:餞別の会には出られないからって、「ちょっとばかし」お足を置いてって呉れたのよ。「鹿之助さんや猪ノ吉さんに集(たか)るようにして飲んでいては、お酒も美味しくないでしょう?」だとよ。気が利くよな、まったく。
>熊:ほう。そりゃあ助かるな。・・・で、それだけか?
>八:そうよ。それだけよ。他(ほか)に何があるってんだ?
>熊:それにしちゃあ、親方の顔付きが仏様みてえに穏(おだ)やかなのはどういう訳だ?
>八:ああ、そのことか。・・・「今夜は親方と2人っきり差し向かいで、お夏ちゃんの旅の安全を祈ってるわ」ってことだからよ。水入らずで、しっぽりできるのが嬉しいんじゃねえのか?
>熊:ははあ、そういうことか。姐さんと2人っきりってとこが味噌だな?
>八:そういうこと。姐さんから「お1つどうぞ」なんて言われながら飲む酒ってのは、きっと一味違うんだろうな。・・・でもよ、おいら思うんだけど、大女将(おかみ)さんがいるとこで、しっぽりなんかできるかってことだよな。
>熊:あっはっは。確かに。・・・でも、なんにせよ、親方がご機嫌でいるってのは有難(ありがて)え。
>八:おいらは、ふんだんに飲めるのが有難え。
>熊:まったく、お前ぇは簡単で良いよな。猪ノ吉が言ってた通りだ。
>八:猪の字がなんだって?
>熊:お前ぇみたいに、なんの心配事もなしに、毎日飲んだり食ったりできるのが羨(うらや)ましいんだとよ。
>八:なんだ、そんなことか。そんなの簡単じゃねえか。他人(ひと)より良い暮らしをしようとか、出世しようとか考えなきゃ良い。それだけだ。
>熊:それができてりゃあ世話がねえ。できねえからみんな困ってるんじゃねか。
>八:ふうん。面倒臭えんだな。

お夏が鹿之助と共に暮れ6つ(18時頃)前にやってきたとき、「だるま」には鴨太郎以外の全員が揃(そろ)っていた。
八兵衛は、我慢し切れず、既に銚子を1本空(あ)けていた。

>熊:鴨太郎は一緒じゃなかったのか?
>鹿:「金魚の糞じゃあるまいし」だってさ。臍曲がりだけは変わりようがないらしい。
>熊:あの野郎、真逆(まさか)すっぽかすつもりじゃあるめえな。
>猪:約束は守るさ。義理堅いのだけは間違いないからな。
>鹿:それもそうだ。・・・きっと、照れ臭いんだな。
>猪:半時もしたら来るだろ。さ、夜は長いんだ。面白可笑(おもしろおか)しくやろうじゃねえか。なあ、お夏坊。
>夏:猪ノ吉さんまで子供扱いするの? もう「坊」なんか付けて呼ばないで。・・・熊さんもよ。
>熊:分かってるって。・・・でもよ、これが最後だ。今夜だけは構わねえだろう?
>夏:最後か・・・。そうね。特別に今夜だけは許しちゃうわ。でも、戻ってきたときは「先生」って呼ぶのよ。分かった?
>熊:ほう、こいつは心強いな。立派な先生になれそうだ。
>咲:それじゃあ、皆々様。未来の医者先生への餞(はなむけ)ということで、景気良く乾杯といきましょう。
>八:待ってましたあ。

>熊:お前ぇはもう飲み始めちまってるだろ?
>八:良いじゃねえか。暫(しばら)くお夏ちゃんの顔を見ることができなくなるんだぞ。この寂しい気持ちは酒でなきゃ埋まらねえのよ。
>咲:今日は特別。口喧嘩も抜きよ。じゃあ、かんぱーい。
>熊:お咲坊、真逆、お前ぇも酒なんじゃねえだろうな?
>咲:何を言ってるの。お酒に決まってるじゃない。お水で乾杯したって詮(せん)ないもんね。それに、適量のお酒は身体(からだ)に良いっていうじゃない。・・・ね、お夏先生?
>夏:なにごとも過ぎたら駄目よ。その上、お咲ちゃんの父上のお酒の弱さね。あれは似るらしいわよ。
>咲:意地悪(いじわる)。
>夏:へへ。でも、ほんとにちょっとだけにしといてよね。負(お)んぶされて帰ったりなんかしたら、旅の間中
気に掛かって仕方がないからね。
>咲:それも良いかもね。・・・だって、気に掛かってるってことは、あたしのこと忘れてないってことだもんね。
>夏:馬鹿ね。みんなのこと忘れたりなんかするもんですか。あたし、そんな薄情(はくじょう)娘じゃないもん。

>八:お、おいらのことも忘れねえで呉れよな。な?
>夏:八兵衛さんは、あたしのことなんかさっさと忘れて、素敵な人と幸せになって呉れると良いんだけど。
>八:なんだよぉ。お夏ちゃんの、意地悪ぅ。
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