火事場の馬鹿力かじばのばかぢから

ことわざの意味
切迫した状況や緊急事態に置かれると、普段は想像もできないような大きな力が無意識に出ることのたとえ。

用例

  • 締め切りまであと1時間しかない状況で、火事場の馬鹿力を発揮して驚異的なスピードで仕事を終わらせた。
  • 交通事故で車の下敷きになった人を助けようとして、居合わせた人々が火事場の馬鹿力で車を持ち上げたというニュースを見た。
  • 試合終了間際に火事場の馬鹿力が出て、逆転トライを決めることができた。

ことわざの由来

このことわざは、実際に火事が起きた際の逸話に由来しています。

江戸時代など、木造家屋が多く火事が頻発していた時代、火の手が回って逃げる際に、か弱い女性やお年寄りが、普段なら絶対に持ち上げられないような重いタンスや長持(衣類などを入れる大きな箱)、あるいは先祖代々の位牌が入った仏壇などを一人で背負って逃げ出したという話が多く残っています。 しかし、火が消えて落ち着いた後に、同じものを持ち上げようとしても重すぎてびくともしなかった、という笑い話のような実話から、緊急時に発揮される信じられない力のことを「火事場の馬鹿力」と呼ぶようになりました。

現代の生理学的な観点からは、人間は普段、筋肉や骨格が壊れないように脳が無意識に筋力の出力を制限(リミッター)していると説明されます。緊急時にはこのリミッターが外れ、本来持っている潜在能力がフルに発揮される現象(心理学的限界の解除)であると考えられています。

類似のことわざ

  • 窮鼠猫を噛む(きゅうそねこをかむ)
    • 追い詰められた弱いネズミが猫に噛みつくように、弱者でも絶体絶命の状況では強者に反撃したり、予期せぬ力を出したりすること。
  • 背水の陣(はいすいのじん)
    • 一歩も退けない状況に身を置いて、決死の覚悟で事にあたること。状況を作るという意味合いが強い。

英語の類似のことわざ

英語圏では、現象そのものを指す言葉や、逆境が力を生むという格言が該当します。

  • Hysterical strength
    • (ことわざではなく用語ですが)極限状態で発揮される超人的な筋力を指す、まさに「火事場の馬鹿力」の直訳的な英語表現です。

ことわざを使った文学作品

特定の古典文学作品が「由来」となっているわけではありませんが、この言葉や概念は多くの創作物で扱われています。

  • 『キン肉マン』(ゆでたまご)
    • 文学作品ではありませんが、このことわざを現代のポップカルチャーに深く浸透させた最大の功労者と言える漫画作品です。主人公のキン肉マンがピンチの際に発揮する逆転のパワーを**「火事場のクソ力(カジバノクソヂカラ)」**と名付けており、これは「火事場の馬鹿力」をもじったものです。この作品の影響により、昭和・平成世代には「火事場の馬鹿力」=「逆転のパワー」というイメージが定着しました。