23.【い】  『石に漱(くちすす)ぎ流れに枕(まくら)す』 (2000/04/17)
『石に漱ぎ流れに枕す』
負け惜しみが強く、自分の誤りに屁理屈を付けて言い逃れる。
類:●漱石枕流●岩に漱ぐ
故事:世説新語−排調」・晋書−孫楚伝」 中国、晋の孫楚(そんそ)が「石に枕し流れに漱ぐ」を「石に漱ぎ流れに枕す」と言い誤ったのを、「石に漱ぐ」は歯を磨くため、「流れに枕す」は耳を洗うためだとこじつけて弁解した。
出典:晋書(しんじょ) 中国の正史。130巻。唐の太宗の時、房玄齢(ぼうげんれい)らが詔(みことのり)を奉じて撰んだ。24史の一つ。貞観20年(646)成立。帝紀10・志20・列伝70・載記30巻からなる。宣帝・武帝の2帝紀と陸機(りくき)・王羲之(おうぎし)の2伝は太宗自撰。陸機以下18家の晋史を集め、編修したもの。
★夏目金之助のの筆名「漱石」はここから。序(つい)でに、「流石(さすが)」もここから。
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二助は、別に回るところがあるからといって帰って行った。
太郎兵衛の件で何かあったらすぐに知らせるんだぞと念を押したが、はいはいと、空(から)返事が返ってきただけだった。
満腹(まんぷく)になった五六蔵と、三吉、四郎はうとうとし始めていた。

>熊:親方、どうです、初詣(はつもうで)にでも行ってきやせんか?
>八:市谷の八幡様なんてどうです?  あそこは縁結びに御利益(ごりやく)があるとか言ってましたよねえ?
>源:八幡様ってのは弓矢の神様だろう。縁結びの筈がねえじゃねえか。そもそも初詣なんてのは商売繁盛とか家内安全とかを祈願(きがん)するもんじゃねえのか?
>八:そうっすか? でも今の親方に一番必要なのは縁結びじゃねえんですかい? ・・・弓矢の神様ねえ、分かった、男の子が産まれるようにって祈願するところですよね。破魔弓(はまゆみ)ってそういうもんなんでしょう?
>熊:産まれた後のことだろうよ。強く育ちますようにって祈願するんじゃねえか。お前ぇ気が早過ぎるんじゃねえのか?
>八:そんなの後だろうが前だろうが一緒じゃねえか。ね、親方、行きましょうよ、縁結び祈願に。
>源:だから、縁結びじゃねえって言ってんだろう。それに商売繁盛でもねえんなら、俺には縁がねえところじゃねえか。
>八:お札(ふだ)だったら選り取り見取り、なんだって有りますよ。それに、弓矢の神様だって泰平の世の中で暇を持て余してるでしょうから、縁結びの面倒だって見て呉れますよ。
>源:お前もくどいな。そういうのを屁理屈って言うんだ。でもまあ良いか、八幡様に行ってみるとするか。・・・だけどな、なんだ、お咲ちゃんたちはもう済ましてきちまってるからな。一日に2箇所はなあ。置いて出掛ける訳にもいかねえし。
>八:お咲坊をですかい? それともあやさんをですかい?
>源:両方に決まってんじゃねえか。何言い出しやがる。

>咲:あたしも行きたーい。
>熊:お前ぇなあ、あっちもこっちもなんて言ってるとどっちも願い事を聞いちゃあくれねえぞ。
>咲:良いもん。これまで毎年同じことお願いしてて聞いて呉れた例(ためし)がないんだから。
>熊:随分と捌(さば)けちまってるねえ。
>八:あやさんはどうなさいやす?
>あや:わたしはここに居させて貰おうかと思います。皆さんで行ってらしてください。
>源:良いんですかい? あれこれ手伝わされるのが落ちですよ。
>あや:家事をしているくらいの方が却(かえ)って性に合ってるんですよ。
>源:そうですか? 俺なんか、口喧(くちやかま)しいばばあの小言を聞かされるくらいなら、外にいた方が全然気が楽ですけどねえ。
>あや:わたしそういうのって嫌いじゃないんですよ。
>熊:菩薩(ぼさつ)様みてえなお人だねえ。拝(おが)みてえくらいですよ。お咲坊とは大違いだ。
>咲:この好色者! 少しは親方を見習いなさい。
>熊:へえい。返す言葉もございません。
>八:親方も少しは熊を見習って、あやさんを拝むくらいの方が良いんじゃねえですかい?
>源:放(ほ)っとけ。・・・五六蔵、三吉、四郎出掛けるぞ、起きろ。

>五六:何ですか? もうお開きですか。
>源:ごろごろしてねえで、酔い覚ましに行ってこようってんだよ。
>五六:帰ったらまた飲めるんですかい?
>源:ああ飲めるとも。しかし、お前ぇは気楽で良いな、飲み食いと眠ることしか考えてねえのか?
>熊:八幡様に頼んで、こいつの腹にぷすっと矢を射って貰っちゃどうです? きっと酒がぴゅーっと出てきやすよ。
>五六:堪忍してくださいよ。そんな勿体ねえことしねえでくださいよ。
>八:心の臓に当たったら、周りにいる娘っ子に誰彼構わずに抱き付いちまうかも知れねえな。
>熊:まだ言ってやがる。縁結びの神様じゃねえっての。
>八:あれ? そうだっけ? 親方も認めたんじゃなかったっけ?
>熊:面倒だから話を切り上げただけだ。
>八:でも、ほんとは縁結びの祈願をするかも知れねえぜ。口に出す訳じゃねえから誰にも分からねえしな。
>熊:それは有り得るな。
>源:なあに戯(たわ)けたことを言ってやがる。さっさと出掛けるぞ。

>源:それじゃあ行ってきやすんで、後は適当にお願いしやす。
>あや:お気を付けて。
>熊:なんだかご新造(しんぞ)さんみてえだな、あやさん。火打ち石でも打って貰いたいもんだねえ。
>八:親方、今、なんか色っぽい想像かなんかしていませんでしたか?
>源:今日は随分絡(から)むな。こいつ絡み酒か?
>八:親方にはあやさんがいて熊の野郎にはお咲坊がいて、おいらは空っ穴(からっけつ)ときてる。2人のことを揶揄(からか)うしかないじゃありやせんか。
>源:熊にお咲ちゃんというのは分かるが、俺が何であやさんなんだ?
>八:違うんですか? これっぽっちも考えたことありやせんか?
>源:そりゃ、これっぽっちもなんて言ったら嘘になるがな。
>八:ほうらそうでしょ? これまで38年間でこんなこと考えたの初めてでしょう?
>源:だったらどうだってんだ。
>八:普通の男になりなすったってことですよ。さ、参りやしょう、縁結び縁結びっと。
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※時代考証を誤っています。
「キューピッドの矢」などというものを、この時代の庶民が知っていたとは思えません。