09.【あ】  『悪貨(あっか)は良貨(りょうか)を駆逐(くちく)する』 (2000/01/10)
『悪貨は良貨を駆逐する』
質(たち)の悪い人間が蔓延(はびこ)って、優れた人間が姿を消すということ。悪が栄え善が滅びるということ。 
★トマス・グレシャムの言葉から。
類:●Bad money drives out good. / Bad money drives good money out of circulation.<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典
参考:グレシャムの法則」 名目価値は同じだが、実質的価値の異なる二種の貨幣が同時に使われるとき、「良貨」は貯蔵され、「悪貨」だけが市場に流通する傾向を生じる。
人物:トマス・グレシャム(Thomas Gresham) 16世紀のイギリスの財政家、貿易家。1519〜79。エドワード6世、エリザベス1世に仕えた王室財務官。貨幣の改鋳に努力した。
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熊五郎と八兵衛は、そのごろつき3人組と、過去2回ほど殴り合いをしていた。
同じ長屋の半次がかっとなり易い質(たち)なもので、止めに入る格好になるのが常だが、熊や八とて虫の居所が悪いときもある。
熊が「この三下野郎」と怒鳴ってしまったときは、もう少しで卓を賄(まかな)い場に投げ込むところまで行った。その時は、亭主が土下座した上に何がしかの慰謝料を持たせたから事無きを得たが、逆に味を占めた嫌いもあり、ここのところ頻繁(ひんぱん)に出入りしていたのだ。

>ごろ1:ねえちゃん、名前ぇはなんてんだい?
>あや:あなた方にお教えする名前は持っていません。
>ごろ1:なんだと。もう一遍(いっぺん)言ってみろ。
>あや:あなた方に教える筋合いはありませんと申しました。
>ごろ2:やい、あま、この方を誰だと思ってやがんでえ。その筋じゃちっとは知れたお人だぞ。
>ごろ3:葉隠れの五六蔵様だぞ。
>あや:存じません。大方、口入れ屋からも見放されて奉公口もない、はぐれのごろつきでしょう。
>源:上手(うま)いっ。

絶妙な間(ま)で源五郎の合いの手が入った。
五六蔵が立ち上がり、源五郎の方を振り向いた。視線が交錯し、一瞬火花が散ったと思えるほど緊張感が高まった。

>八:親方ぁ、滅多(めった)なことで関わるもんじゃありませんよ。
>熊:そうですよ、あいつ腕っ節だけはとんでもなく強いんですから。
>源:構(かま)うもんか。・・・よう、五六蔵さんとやら。こちとら、これからこいつらの人生相談をしようってとこなんだ。そんなにぴりぴりしねえで、ほかのもんが気楽に話せるようにして呉れねえか。
>五六:なんだと? 人生相談? 鬼瓦が人様の幸福を招(まね)くってえのか?
>源:鬼瓦は何を招くもんでもねえ。お前らみてえのを除(の)けるためにあるんだよ。
>五六:随分偉そうじゃねぇか。何様のつもりだ。
>源:唯(ただ)の大工だ。
>五六:大工風情(ふぜい)が口出しするんじゃねえ。すっ込んでろぃ。
>源:そいつぁあ出来ねえ相談だな。俺はこの店が気に入ったんだ。俺が行くとこには手前ぇらみたいな南京虫(なんきんむし)は近寄ってもらいたくねえんだ。
>五六:はぐれだの南京虫だのと、勝手なことをほざきやがって。痛い目を見ねえうちにとっとと失(う)せやがれ。

五六蔵は、顔を真っ赤にして睨(にら)んでいる。一触即発の状態であった。

>八:親方ぁ、やばいっすよう。
>熊:今日のところは大人しく引き下がっといたのが良いんじゃねえですかい?
>源:駄目(だめ)だ。正しい奴が間違った奴に負けたんじゃ、お先真っ暗じゃねえか。力のねえ女や子供は誰に付いて行けばいいんだ? こんなのが罷(まか)り通っちまったとなりゃあ、世の中何処(どこ)も彼処(かしこ)も盗人(ぬすっと)と人殺しだらけになっちまうじゃねえか。
>五六:そのどこが悪いってんだ。結局、強い者が勝つんだ。勝者こそが正道(せいどう)なんだよ。頭を下げるってんなら子分にしてやっても構わねえが、どうだ?
>源:俺にはあんたが正しいとはどうしても思えねえな。それに、組にも入れねえではぐれてるあんたが強い筈がねえ。どうせ、どっかの親分のところに行ったらへいこらしてるんだろ。
>五六:御託(ごたく)はもう聞きたくねえ。俺は俺の遣り方でやる。
>源:こんだけ言っても分からねえのか。表へ出やがれ、この三下野郎。
>五六:三下だぁ? それだけは言っちゃあなんねえ言葉だったな。・・・もう我慢なんねえ、野郎ども痛い目見せてやれ。
>ごろ2・ごろ3:へい。

>熊・八:親方ぁ。
>亭主:源さん。
>あや:源五郎さん・・・
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