84.【お】 『同(おな)じ穴(あな)の狢(むじな)』 (2001/07/02)
『同じ穴の狢』[=狐・=狸]
同じ穴にすんでいる狐(狸、狢)という意味。二人の人が、外見や肩書きからは別のもののようであるが、実は同類であるということ。多くは、悪人のこととして使う。また、共謀して悪事を企(たくら)む者。
類:●一つ穴の狢
 出典:「漢書−楊?伝」「令親任大臣、即至今耳、古与今、如一丘之貉
*********

生駒屋が頼んだという瓦版の売れ行きは物凄(ものすご)かった。
二匹目の泥鰌どころではない。
野崎屋杉太郎が言ったように、庶民はお涙頂戴物に飢(う)えていたのである。
自(おの)ずと、瓦版に入れた宣伝の効果も絶大(ぜつだい)であった。
生駒屋の店先には長蛇の列ができて、品薄(しなうす)になったものを本店まで引き取りに行かなければならない程だった。
お咲は、後学(こうがく)のためにと、太助を伴(ともな)って様子を見に来ていた。

>咲:これ程とは思わなかったわね。
>太:凄いですね。そんなに良く書けた物語だったんでしょうか?
>咲:あら、太助さん、読んでないの?
>太:はあ。
>咲:服部肝臓っていう忍びの話なんだけど、中々良くできてるのよ、これが。斉斉(さいさい)先生とか下駄代さんとか、とても実在したとは思えないような人が登場するんだけど、それはそれで気楽に読めるのよね。
>太:美談なんですか?
>咲:どうかしら? 確かに二親(ふたおや)が亡くなったところは泣けるように書いてたけど、第1話を読み終わった感じでは美談だっていう気はしなかったな。
>太:第1話ってことは、続きも出るんですか?
>咲:あの調子だと、暫(しばら)く続くわね。
>太:それじゃあ、うちの瓦版なんて、見向きもされなくなっちゃうじゃないですか。
>咲:毛色が全然違うから、大丈夫なんじゃないの? でも、外伝(がいでん)なんか売らせちゃ駄目よ。誰も買って呉れなくなっちゃうから。
>太:やっぱりそう思いますか?
>咲:決まってるじゃない。

買い物を終えた娘に頼んで、瓦版を少しだけ見せて貰った。
生駒屋の広告には「この読売を持参された方に限り2割払い戻す」旨が、書かれてあった。
道理で、並んでいる町娘が瓦版を手にしている訳である。

>咲:富郎さんも面白いことを思い付いたわね。値下げはしないけど払い戻せば、買う方は同じだものね。もしかすると、浮いた代金で、別のものも買ってって呉れるかもしれないし。
>太:瓦版の方だって有難いですよ。直ぐに捨てられちゃわないで済むんですから。巧くすると、物語が終わるまで全部を集めようって思う人だって出てこないとも限らないんですから。
>咲:成る程。お店にとっても読売り屋にとっても良いことって訳ね。
>太:何よりも良いのは、4文(=約80円)の瓦版で1朱(=約5000円)の2割が戻ってくるっていうところですね。1朱の2割ってえと、・・・。えーと・・・
>咲:50文(=約1000円)。凄いことよね。
>太:はあ。
>咲:それにしても、太助さんってほんとに、勘定(かんじょう)が駄目なのね。
>太:こればかりはどうも。
>咲:そういう額を扱(あつか)うようになったら、いずれ覚えちゃうものだから大丈夫よ。
>太:そうでしょうか?
>咲:太助さんだって、このまま偉(えら)くなって弟子を持つようになったら、大きい額を扱わなきゃならないのよ。その頃にはもう平ちゃらになってるわよ。
>太:けど、うちには立派な手代さんがお2人もいらっしょいますから・・・

>咲:それにしても、この文章、どことなく『コロ助物語』に似てない? 健一って人に食べさせて貰った秋刀魚(さんま)に感銘(かんめい)を受けて終生の忠誠を誓う件(くだり)なんか。
>太:そう言われるとそうですね。
>咲:これはちょっと確かめとく値打ちはあるかもしれないわね。
>太:確かめるんですか?
>咲:このあたしを誰だと思ってるの? 下っ引きのお咲さんなのよ。気になり始めたらもう誰にも止められないわ。
>太:でも、調べてどうしようっていうんです?
>咲:さあ。どうしましょ? ・・・でも、知りたいの。太助さんも付き合ってよ。
>太:うちの旦那に聞きに行くんですか?
>咲:それよりも確かな遣り方があるわよ。富郎さんに一筆(いっぴつ)書いて貰うの。なんてったって宣伝の代金を払ってるお店なんだから、その読売屋だって無下には断(ことわ)れないわ。

そんな訳で、お咲と太助は読売屋・春日井屋を訪ねた。
春日井屋以吉は、初めのうちこそ2人を胡散(うさん)臭そうに見ていたが、富郎の紹介状を読んだ途端、掌を返したように愛想を振り撒(ま)き始めた。
座布団を裏返し、お茶と茶菓子まで用意させ、「肩でもお揉みしましょうか」まで言った。相当な日和見(ひよりみ)である。
早速(さっそく)案内させるからと、手代を呼んだ。

>春:手代の仙六という者です。少々無愛想(ぶあいそう)ですが、どうぞお連れください。
>仙:用意は良いか? じゃあ、直(す)ぐ出掛けるぞ。
>咲:は、はい。
>春:生駒屋の旦那にはくれぐれも宜しくお伝えくださいましねえ。
>咲:え、ええ。
>仙:ぐずぐずしてると置いてくぞ。
>咲:はい。・・・あの、ほんとに手代さんですか?
>仙:そうだ。なんか変か?
>咲:旦那さんより偉そうなんですもの。
>仙:そうか? 俺はそんなこと気にしたこともねえがな。

文士の先生の名は、安孫子藤吉郎といい、路地裏の日の当たらない長屋の1室に住んでいるという。
丁度、第2話を取りに来るところだったと、苦虫を噛み潰したような顔のまま教えて呉れた。

>仙:先生方、いらっしゃいますかい?
>藤:仙六さんかい? お入んなさいな。
>仙:ご免なすって。

中には、2人の先生方が文机に向かっており、その傍(かたわ)らに先客が控(ひか)えていた。

>仙:おや、茂長じゃねえか。こんなとこで何してやがる?
>茂:お前さんに話す謂れはありませんですよ、仙六さん。
>仙:ははあ、お前ぇんとこの『コロ助』とかいうやつは、安孫子先生の作なんだな?
>茂:それは勘違いなんではないのですか? うちがお願いしてるのは、藤吉郎先生じゃなく浩丸(ひろしまる)先生の方ですよ。
>仙:何を言ってやがる。どっちも一緒じゃねえか。お2人で書いていなさるんだからよ。
>茂:そんなことよりですよ、あんたんところの『服部』とかいうのもこちらの先生方の作ということなんですか? 確か、順番としては、うちの方が先でしたよねえ。
>仙:どっちが先かなんて、この際大したことじゃねえだろう。
>茂:真似(まね)したのは、そちらさんですよねえ。うちの旦那から捻じ込んで貰った方が良いでしょうかねえ。
>仙:黙れ。粗筋(あらすじ)を考えたのはこの俺だ。それなら文句はねえだろう。
>茂:所謂(いわゆる)ひとつの捏(で)っち上げなんですね?

>太:あの。・・・ということはですよ、どちらも出任せってことなんでしょうか? 
>茂:おや、太助どん。お前さんがなんでここに?
>仙:なんだよあんた。茂長の知り合いなのか?
>太:あ、いや、その・・・
つづく)−−−≪HOME