46.【い】 『犬(いぬ)と猿(さる)』 (2000/10/02)
『犬と猿』
犬と猿のようないがみ合う間柄。お互い性分が合わない仲である。
由来:昔、猟師は犬を連れて山に入っていたが、野生の猿とばったり鉢合わせすることも珍しくなかった。当然の如く、阿鼻叫喚の騒ぎとなる。このような様子から言われるようになったものらしい。
類:●犬猿の仲●犬と猫●犬猿の間柄●水と(に)氷炭相容れず●They agree like cats and dogs.(《皮肉》 猫と犬のように仲がよい)<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典
出典:咄本『曽呂利狂歌咄』・狂言『竹生島詣
出典@:曽呂利狂歌咄(そろりきょうかばなし) 咄本。安楽庵策伝か。寛永年間(1624〜44)か。・・・詳細調査中。
出典A:竹生島詣(ちくぶじままいり)・竹生島参 狂言。各流。無断で休んで竹生島詣(もう)でに行ってきた太郎冠者に主がその様子を尋ねる。太郎冠者は主が洒落(しゃれ)好きなのに乗じ、神前の様子を出まかせの洒落に言い紛(まぎ)らす。

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>八:ときに、お前ぇ、勘当(かんどう)されてたんじゃなかったか?
>五六:へい。その通りで。
>八:敷居も跨(また)がして貰えなかったらどうするんだ?
>五六:堅気(かたぎ)になったって言えば許して呉れるんじゃねえかと・・・
>八:そう簡単に行くかよ。
>熊:勘当なんてものは、口を衝(つ)いて出ちまってから大事(おおごと)になっちまうもんだからな。
>八:親父さんにだって面子(めんつ)ってもんがあるだろうよ。
>五六:ご尤(もっと)もで。
>熊:お前ぇ家取りか?
>五六:長子ではありやすが、弟が3人居やすから。
>八:妹は?
>五六:4人です。
>八:へえ、一体(いったい)何人の所帯なんだ?
>五六:住まっているのはあっしを抜いて12人です。ただ、親父の兄弟が5人、祖父(じい)さんの兄弟も6人居やして、殆(ほとん)どが健在でやすから。
>八:それじゃあ、曾祖父さんの葬式なんてったらとんでもねえ数になっちまうじゃねえか。
>熊:村が1つできるんじゃねえのか?
>五六:でも、全員来る訳じゃないでしょうから。
>熊:中には一回も顔を合わせたことのねえ縁者もいるんじゃねえのか?
>八:紛(まぎ)れ込んじまえば分からねえかもな。
>五六:真逆(まさか)。
>熊:でも、ま、それだけいれば、酔狂(すいきょう)な人が間に立って呉れるかも知れねえな。

酒で気が大きくなったせいか、巧(うま)く事が運びそうな気になってきていた。
熊五郎と八兵衛は親方への取り成しを引き受けた。
そこへ、「いやあ参ったぜ」と言いながら二助が入ってきた。

>八:なんだ二助、独(ひと)りか?
>二:ああ、お前ぇらもいたのか。お夏ちゃん、冷やで1杯頼むよ。
>夏:あらあら二助さん、どうかしたんですか血相変えちゃって。
>二:そこの辻で、堺屋の若旦那とばったり出くわしちまってよ。
>熊:去年の春にぶん殴(なぐ)ったとかいう、あの若旦那かい?
>二:そうそう、海産物問屋の若旦那。若布(わかめ)みてえになよなよしやがって、まったく、いけ好かねえったらあらりゃしねえ。
>八:またぶん殴ってやりゃあ良かったじゃねえか。
>二:冗談じゃねえ。あん時だって大変だったんだから。親父まで出張(でば)ってきちまって大事(おおごと)になるところだったんだぞ。
>夏:一代で江戸のお店(たな)を大店にしたっていう、あの堺屋さんですか?
>八:知ってるのかい?
>夏:ええ。播磨(はりま)は明石の干し蛸(だこ)を一手に扱(あつか)っているとかで、かなりの遣り手らしいわよ。
>八:干し蛸? おい熊、そんなもん食ったことあるか?
>熊:いいや。どうせ鯣(するめ)みてえなもんだろう?
>二:そうそう。その、鯣のごついやつみてえな親父が来てよ、大事な跡取りだから手荒なことは金輪際許さんってがなりやがる。まったく、子供の喧嘩に親が出るなってんだ。
>熊:それで、ここに逃げ込んできたってのか?
>八:なんでえ、てんだらしがねえじゃねえか。
>二:馬鹿言え。見逃してやったのよ。それに、やつの取り巻きもいたりして面倒だったしな。
>八:親蛸が怖いか?
>二:違うって言ってんだろ。相手が大店だろうと関係ねえさ。こちとら天涯孤独(てんがいこどく)の身だ、
矢でも鉄砲でも持って来いってんだ。
>八:なんだか投げ遣りに聞こえるぞ。

>五六:差し出がましいようなんでやすが。
>八:なんだ? なんでも言ってみろよ。
>五六:へい。その若旦那ってのは徹右衛門とかいう大層な名前の奴でやすよね。
>二:名前なんか知るかよ。
>五六:多分そうだと思うんですよ。そいつのですね、話を聞いちまったことがあるんですよ。
>八:なんでえ、おいらたちだってそいつの話を今聞いてるところじゃねえか。
>五六:そうじゃなくて、徹右衛門本人と、どこぞの娘の痴話喧嘩(ちわげんか)をですよ。
>二:確かか?
>八:お、段々面白くなってきやがったぞ。
>熊:お前ぇも悪い趣味だねえ。
>八:親の名前を笠に着て偉そうにしてる奴は、ちっとくらい懲(こ)らしめてやった方が良いの。
>熊:へえ、お前ぇにしちゃあ上出来な考えだ。
>二:それで? どんな話だい。
>五六:三月ほど前のことでしょうか、八幡様の境内(けいだい)を歩いてたら、逢引(あいび)きする何組かの男女の内の1つが口喧嘩を始めやして。
>八:お前ぇ、なんでそんなとこにいたんだ?
>五六:そ、そりゃあ、親方から言われたように禊(みそぎ)をしようと思いやして、へい。
>八:怪しいもんだ。
>熊:出歯龜か?   
(※)
>二:そんなことでうでも良い。どういう話だ?

>五六:徹右衛門(てつえもん)って奴が、撫子(なでしこ)だか女郎花(おみなえし)だかいう娘を孕(はら)ませたらしいんです。
>八:良くあることじゃねえか。それで、生むの生むなの言い争いか?
>五六:そこがまた妙なんで。生まれてくるのが女だったら祝言(しゅうげん)を挙げてやるってんです。
>熊:普通逆だろう。後継ぎが出来たらってんなら分かるがなあ。
>八:じゃあ何かい? その桔梗(ききょう)だか尾花(おばな)だかって娘は、稚児(ややこ)が生まれるまで放っとかれるって訳かい?
>五六:どうやらそういうことらしいんで。
>二:その葛(くず)だか藤袴(ふじばかま)だかって娘は、それで納得(なっとく)したのかい?
>五六:渋々。
>八:大店の嫁っていう立場に目が眩(くら)んじまったのかね。
>二:大方、そういう娘ばっかり食い物にしてるんだな。
>八:他にも孕まされてる娘がいるってことかい?
>二:当ったり前だろ? 一人一人に詰め寄られては、のらりくらりと逃げ口上(こうじょう)を垂れて身を躱(かわ)しやがる。結局誰一人として巧く捕まえられやしねえ。
>八:まるで蛸みてえだな。

>熊:それはそうと、そいつの名前って、本当に徹右衛門って言うんだろうな?
>八:何を惚(とぼ)けたこと言ってるんだ。それを確認するためにお夏ちゃんがいるんじゃねえか。
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※注釈:「出歯龜」 時代考証を誤っています。が、しっくり来る言葉が思い浮かばなかったのでそのまま使わせてください。
女湯覗きの常習者で、明治41年(1908)に性的殺人事件を起こした出っ歯の植木職池田龜太郎という男の渾名。覗きをする男、変態的なことをする男のこと。転じて、好色な男の蔑称。