03.【あ】『青(あお)は藍(あい)より出(い)でて藍より青し』 (1999/11/15)
『青は藍より出でて藍より青し』
教えを受けた者が教えた人よりも優(すぐ)れること。弟子の方が師匠よりも優れること。
類:●氷は水より出でて水より寒し●出藍(しゅつらん)の誉(ほまれ)
出典:「荀子−勧学」 「学不可以已、青出之藍、而青於藍」
出典:
荀子(じゅんし)    中国の儒家書。20巻。荀況撰。「勧学」「礼論」「性悪」などの諸編で礼を価値規準とした哲学・倫理・教育・政治などに関する論評・随想を述べたもの。孟子の「性善説」に対して「性悪説」を唱えた。善なる偽(人偽)を高揚して個人の能力主義を主張し、世襲制・血縁制を否定している。
人物:荀子(じゅんし)・荀況(じゅんきょう) 戦国時代の思想家。名は況。前298〜前238頃。趙に生まれ、斉に仕え、後に楚に仕えた。孔子の学問を受け継いで、礼儀・道徳による教育を重んじ「性悪説(人間の本性は動物的本能にそのまま従うものであるとする学説)」を唱えた。韓非と秦の宰相李斯(りし)を教え、後の法家の考え方にその基礎を与えている。著に『荀子』がある。荀卿・孫卿とも呼ばれる。
参考:性悪説(せいあくせつ)  「人間の本性は質朴であるが、そのままの状態では悪に向かう性質がある。善というものは、人為を正しく積んだ結果である」とする説。孟子は善悪を道徳的・主体的なものとしたが、荀子は善悪を社会的・客観的なものとして規定した。
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熊五郎と八兵衛は茫然自失の状態のまま朝餉(あさげ)を済ませ、八の母親から持たされた弁当をぶら下げて現場に向かった。
牛込の辺りに新しい馬場ができるとかで、お店(たな)やら長屋やらの改築工事が増えていた。
2人は気持ちを改め、恩のある親方のために一肌脱ごうかという気になってきていた。
早速親方のところに挨拶に行き、今日一日の仕事内容の確認を済ませた。

>熊:ときに親方、歳は幾つになりやした?
>源五郎:なんだよ薮から棒に。数えで30と8だ。何か文句があるのか。
>熊:いえ、別にどうということじゃねえんで。
>八:親方、所帯(しょたい)を持とうって考えたことはねえんですかい?
>源:なんだよ、奥歯に物が挟まったみてえな物言いだな。つまらね鎌なんか掛けようってんなら承知しねえぞ。
>八:滅相もねえ。ただ、親方もなんだあ、男盛りってえか、色気盛りってえか・・・
>源:馬鹿野郎、そんなこたあどうでも良いだろう。さあ仕事仕事。
>熊:あとひとつ聞いていいですか? うちの大家の甚兵衛さんとはどういう間柄なんです?
>源:なんだ知らなかったのか? 俺の親父の親方だったお人だ。
>2人:なんですってぇっ? 棟梁の親方あ?
>源:そうよ。偉(えれ)えお人なんだよ。
>八:あのちんちくりんが、ですかい?
>熊:あの業突く張りが、ですかい?
>源:そんなこと親父に聞かれでもしてみろ、伸(の)し烏賊(いか)みてえにされちまうぞ。
>棟梁:・・・なんだ? 俺に用か?

八と熊は、蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの持ち場目指して逃げていった。

>棟梁:なに話してやがったんだ?
>源:いやなにね、甚兵衛さんとはどういう関係かって聞かれて。変なやつらだ。
>棟:甚兵衛親方のこと?
>源:あいつら甚兵衛さんの長屋に住んでてね。そんだけのことだと思うんだがね。
>棟:ほう。それで? 他にも何か聞かれなかったかい?
>源:ああ、歳は幾つだとか、所帯を持とうと思ったことはないかとか。
>棟:そうかいそうかい。・・・お前ぇ、今晩あの2人に付き合って、もうちいと細かい経緯(いきさつ)を聞いてきちゃあ呉れねえか?
>源:そりゃあ、構わねえが。なんだい親父、爺さんとなんか企(たくら)んでるんじゃねぇだろうな。
>棟:ああ、企んでるとも。
>源:なんだか分からねえが、飲代(のみしろ)は親父に付けとくからな。
>棟:ああ良いとも良いとも。
>源:なんでえ、にやにやしやがって、気持ち悪(わり)いったらありゃしねえ。

昼飯のとき、八兵衛と熊五郎は、どうやって源五郎を「だるま」に引っ張り込もうかと、作戦を練(ね)っていた。

>熊:それにしてもよ、親方ってこっちの方はからっきだしな。
>八:普通あれだけ言われりゃあよ、見合い話だなくらい気が付くぞ。
>熊:ま、だから良いんだってのもあるけどな。
>八:違(ちげ)えねえ。
>熊:しっかしよう、大家さんが棟梁の親方とはねえ。魂消(たまげ)たねえ。
>八:「鳶に油揚」だな。
>熊:それを言うんなら「鳶が鷹」だろう。大方、大家さんが銭の勘定専門で、棟梁が現場の切り盛り全部ってとこだったんだろうよ。そうとしか考えらんねえ。
>八:そうだな。棟梁はてえしたお人だもんな。なあ、それよか、どうするよ。
>熊:「偶(たま)に一杯どうですか」って、すらっと言った方が良いんじゃねえのか。
>八:まあな。所詮おいらたちにゃ作戦なんか立てらんねえしな。
>熊:唯(ただ)な、もし引っ張り出せたとして、一体どう切り出したら良いんだ?
>八:うーん。
>熊:参ったね、どうも。
>八:ま、なんとかなるよ。一目会ったその途端に惚れちまうってのもあるしな。
>熊:それだ。・・・そうだよな。世の中なんてそんなもんだよ、な。
>八:違えねえ。

結局、「作戦なし」という作戦に落ち着いてしまった。毎度のことである。
2人が安易な結論に達した丁度そのとき、源五郎が近付いてきた。

>源:なに嬉しそうな顔してやがる。どうせ俺の悪口でもほざいてやがったんだろう。
>2人:滅相もねえ
>源:おい、お前ら今晩ちょいと付き合え。
>2人:へ?
>源:偶には鱈腹(たらふく)飲み食いさせてやろうってんだよ。
>八:ほんとですかい?  ほれ見ろ。そういう風にできてんだよ。
>源:何がどういう風にだ?
>熊:いえ、何でもありやせん。ときに、店はあっしらの行き付けんとこでようがすか?
>源:ああ、任せるよ。さ、仕事仕事。午過ぎも精を出せよ。

2人はこの棚から落ちてきたぼた餅を素直に喜んだ。
大家と棟梁の思惑の中で転(ころ)がされているなどとは、考え及ぼう筈もなかった。

>熊:おい、このままとんとん拍子に事が運んじまったらどうするよ。
>八:嬉しいにゃ違いねぇが、ちょっと複雑だなあ。
>熊:ああおいらもだ。
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