338.【と】『読書(どくしょ)百遍(ひゃっぺん)意(い)自(おの)ずから通(つう)ず』 (2006.06.26)
『読書百遍意自ずから通ず』[=義〜]・[=見(あらわ)る]
1.文意の通じないところのある書物も、百遍も繰り返して熟読すれば自然に明らかになる。乱読を戒(いまし)め、熟読が肝心であると説(と)いた言葉。
2.他人に頼る前に、先(ま)ず自分でしなさいということ。
類:●Repeated reading makes the meaning clear.<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典
故事:「三国志・魏志−董遇・裴松之注」 董遇(とうぐう)という常に本を持っている勉強熱心な人がいた。郡から考廉に推挙され、次第に昇進し、献帝の御前講義を行なう仕事をするようにな人になった。彼の元で直々に学びたいと言う人に、董遇は「読書百篇、義自ら見わる」と言って断った。
出典:「三国志・魏志−王粛」の注に引く「魏略」 → 192 呉下の阿蒙 参照。
★原文では「読書百ヘン(彳+扁)而義自見」。現在では、「遍」・「篇」などで代用される。
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>八:なんだこりゃ? 酷(ひで)えな。
>熊:どれどれ? ・・・ほんとだ。垂木(たるき)が腐(くさ)り始めてるじゃねえか。
>八:こりゃちょっと、大変なことになっちまうな。
>熊:友さん。材木は足りそうかい?
>友:1軒あたり3本までならなんとかなります。それで済みそうですか?
>八:みんなこうだったら足りねえな、こりゃ。・・・どうするよ、熊?
>熊:先(ま)ず、8軒全部見てから決めるってのはどうだ? 足りねえようでも、今のうちならなんとか手配りできるだろう?
>友:それじゃあ、取りに行っている間に2人の手が離れますよ。
>熊:形ばかり直したって仕方ねえでしょう? そんなの「仏作って魂(たましい)入れず」って奴だろ?
>八:おお、好く言った。直すんなら新品同様にしねえとな。
>三:いくらなんでも、そりゃ無理な相談って奴ですよ、八兄い。
>四:ものの喩(たと)えだって。懇切丁寧(こんせつていねい)にってこと。
>五六:まあ、なんにしろ、刻限もあんまりねえことでやすから、取り掛からねえと。
>熊:そういうこった。・・・友さんは数を書き止めてって呉れ。
>友:わ、分かりました。

地主の爺さんの名は「武兵衛(たけべえ)」といった。
相当な年のようだが、なかなかどうして、頗(すこぶ)る矍鑠(かくしゃく)たるものである。
源五郎をひよっこ扱(あつか)いである。

>武:よう、源五郎。
>源:へい。
>武:お前ぇ、幾つになった?
>源:45(=数え年)になりやした。
>武:そうか。お前ぇがお雅ちゃんに負んぶされてた時分から、もうそんなになるか。
>源:「お雅ちゃん」ですかい、あの婆(ばば)ぁが?
>武:おうよ。そりゃぁお淑(しと)やかな娘だったぜ。
>源:嘘でしょう?
>武:嘘なもんか。俺がもう少し若かったら、源蔵から寝取ってたとこだ。
>源:からかうのは止(よ)してくださいよ。
>武:からかってなぞいるもんか。もう少し本気になってたら、お前ぇは今頃俺の倅(せがれ)だったかも知れねえんだからな。ひゃっはっは。
>源:そうなってたら、今頃左団扇(ひだりうちわ)だったかも知れやせんね。

>武:そう思うか? ・・・とんでもねえ。俺はな、倅に身代(しんだい)をやる気なんか、これっぽっちもねえ。
>源:貸し家は冥土(めいど)へは持って行けやせんぜ。
>武:こんなもん、住んでる奴らに呉れてやるわい。
>源:それじゃぁ、倅さんたちにはなんにも残さねえってことですかい?
>武:残すもんか。・・・なあ源五郎。
>源:へい。
>武:人はよ、なまじ半端(はんぱ)な財産を持っちまうと、それに甘えて、身を持ち崩しちまうもんなのさ。
>源:そういうもんですか。
>武:そういうもんよ。銭を増やしたけりゃ、自分の稼(かせ)ぎ方を探しやがれってことさ。
>源:みんながみんなそう上手(うま)くやれるもんじゃありませんぜ。
>武:そうよ。当たり前ぇじゃねえか。だから、儲(もう)かる奴は一握りなのよ。
>源:自分の倅だってのに、こつを教えちゃやらねえんですか?
>武:そうさ。自分で見付けられねえ奴は、どうせ終(しま)いにゃ一文無しになっちまう。どうせ一文無しになるんだったら、やり直しの利くうちの方が良いだろ、
そうじゃねえかい?
>源:成る程。言い得て妙(みょう)でやすね。

武兵衛爺さんは、雨の中を傘も差さずに歩き回る。
それより若い源五郎が差す訳にもいかない。
(季節の変わり目だってのに、元気は爺さんだこと)と、一応、心配している。

>武:なんだ、その目は? 俺が風邪(かぜ)でも引くと思ってやがるのか?
>源:い、いえ、そういう訳じゃ・・・
>武:変わらねえな。源蔵とよ。
>源:何がですか?
>武:自分のことより人のことばかり考えやがる。そんなことばっかりしてると早死にするぞ。
>源:親爺さんの長生きの極意(ごくい)でやすか?
>武:ああ。そうだ。・・・だが、あんまり楽しくねえ長生きだったよ。
>源:「だった」なんてこと言わねえように。
>武:そんなの俺の勝手だ。死にてえときに死なして貰いてえもんだな。
>源:そんなに突き放すもんじゃねえんじゃねえですかい?
>武:俺にそんな言い方をするのも、源蔵とお前ぇくらいのもんだろうな。
>源:倅さんたちは?
>武:嫁どもも引っ包(くる)めて、早く死ねば良いと思ってるこったろうよ。・・・これっぱかしの貸し家を3つに分けたからってどうしようってんだよなぁ、まったく。正直(しょうじき)、もうちっと頭が回ると思ってたよ。
>源:惣領(そうりょう)1人に渡しちまえば良いじゃねえですか。
>武:甚六(じんろく)だぞ。3年と持つまいよ。・・・成れの果て目に浮かぶようだぜ。ひっひっひ。

顔は笑って見せているが、両肩は物寂しそうに落ちていた。
遠目に、屋根の上で瓦(かわら)を外している八兵衛たちを見遣っている。

>武:あそこで瓦を捲(めく)ってるのはなんていうんだ?
>源:八兵衛ってもんです。
>武:手際が良さそうじゃねえか。
>源:もう20年近くになりやすからね。
>武:お前ぇも、あいつに一家を立てさせるつもりなんだろ?
>源:そうです。もう一皮剥(む)けたらね。
>武:そいつはいつだい?
>源:さあ。・・・あっしには分からねえんです。まだまだ物足りないようでもあり、もう十分なようでもあるってとこでして。
>武:そういうもんさ。詰まるところ、親方になるためにゃ、何か1つを掴(つか)まなきゃならねえ。・・・俺の見るとこじゃ、もう一息ってとこだな。
>源:そうですかい? あっしにゃ、あと1年や2年掛かりそうに見えますがね。
>武:近くにいると、見えているようでも見逃しちまってるとこがあるってことよ。
>源:そんなもんですかね?

>武:どうだ? 1月ばかし俺に預けてみる気はねえか?
>源:預けるってったって、あいつにゃ大工しかできやせんよ。
>武:そりゃそうだろう。2、3軒建てさせるだけだよ。なんだったら、もう2人くらい一緒に面倒を見ても良いぜ。
>源:家にいるだけじゃ駄目ってことでやすかねえ?
>武:そういうことじゃねえが、一遍(いっぺん)外に出て、違うところに目が行けば自分で気が付くこともある。
>源:あっしの面目(めんぼく)も丸潰(つぶ)れでやすね。
>武:何言ってやがる。顔なんか生まれたときから潰れてやがるだろう。
>源:武兵衛さんにゃ敵(かな)わねえな。
>武:好し、決まった。・・・後はと、あれとあれが良い。

武兵衛が指を差したのは、友助と三吉だった。

>源:あっちのは大工仕事はできませんぜ。材木を用立てる役をさしてるだけでやすから。
>武:そんなの見てりゃ分かるさ。だから俺に預けろって言ってんだ。
>源:でも・・・
>武:でももへったくれもねえ。序(つい)でにあいつもなんとかしてやらぁ。お負けだ。

>源:ですが、友助に抜けられちまうと、残りの奴らが困るんでやすが。
>武:いるじゃねえか、丁度良いのがよ。・・・ほれ、あの末成(うらな)りの瓢箪だ。
>源:四郎がですかい?
>武:そうよ。あいつは大工の親方には向かねえが、友助って奴の弟子になりゃ立派に後を継(つ)ぐぜ。
>源:へえ、魂消(たまげ)た。武兵衛さんは千里眼かなんかですかい?
>武:あのくらいの若造を何百人も見てりゃ、そのうち、ひとりでに分かるようになっちまうもんよ。
>源:隅に置けやせんね。
>武:そういうときはな、はっきりと「抜け目がねえ」って言いやがれ。

そんな話になっているとは露知らず、八兵衛と友助、三吉は、濡れ鼠になりながら垂木の具合いを検分していた。
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