慇懃無礼(いんぎんぶれい)

ことわざの意味
慇懃無礼(いんぎんぶれい)とは、表面上は非常に丁寧で礼儀正しく振る舞っているように見えるものの、実際には相手を見下していたり、内心では尊大であったりして、かえって無礼にあたる態度のことを指します。「慇懃」は非常に丁寧で礼儀正しいことを、「無礼」は礼儀を欠くことを意味します。丁寧すぎる言葉遣いや態度が、相手に不快感や侮辱の念を抱かせる場合や、悪意をもってわざと丁寧にし、相手を馬鹿にするような場合に使われます。

用例

  • 彼の態度は一見丁寧だが、どこか慇懃無礼なところがあって好感が持てない。
  • 過剰な敬語や回りくどい言い方は、慇懃無礼と受け取られることがあるので注意が必要だ。
  • あの店員は客に対して慇懃無礼な態度をとったため、苦情が寄せられた。
  • 彼女は慇懃無礼な笑みを浮かべ、本心を見せようとしなかった。

ことわざの由来

「慇懃無礼」は、特定の故事成語に由来するものではなく、「慇懃」と「無礼」という二つの言葉が組み合わさってできた四字熟語です。

  • 慇懃(いんぎん): 心を込めて丁寧であること、礼儀正しいこと、手厚いことなどを意味します。古くは「ねんごろ」とも読まれ、『万葉集』にも用例が見られます。
  • 無礼(ぶれい): 礼儀を欠くこと、失礼なこと。

「慇懃」という言葉自体は良い意味ですが、これに正反対の意味を持つ「無礼」がつくことで、「丁寧すぎるがあまり、かえって無礼である」または「表面は丁寧だが、本心では相手を軽んじているため無礼である」という皮肉な意味合いを持つようになりました。 細川幽斎(藤孝)が著したとされる『聞書全集(ききがきぜんしゅう)』には、「卑下過ぎたる詞は、かへりて慇懃尾籠(いんぎんびろう)になるなり」(へりくだりすぎた言葉遣いは、かえって丁寧すぎて失礼になる)という記述があり、「慇懃尾籠」は「慇懃無礼」とほぼ同じ意味で使われます。