35. 【い】  『一葉(いちよう)落ちて天下(てんか)の秋(あき)を知る』 (2000/07/17)
『一葉落ちて天下の秋を知る』
桐の葉が一枚落ちるのを見て秋が来たのを知るという意味で、僅(わず)かな現象を見て、その大勢や将来を予知することの喩え。
類:●梧桐一葉桐一葉一花開けて天下の春●A straw shows which way the wind blows.(一本の藁で風の吹く方向がわかる)<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典
出典:「淮南子−説山訓」 「見一葉落、而歳之将暮、睹瓶中之冰、而知天下之寒」
出典:
淮南子(えなんじ) 哲学書。中国前漢、成立年不詳。淮南(わいなん)王の劉安編。現存するもの21巻。諸家の思想・学説を総合的に記したもので、秦代以前の諸思想が総合的に伺える。正式の書名は「淮南鴻烈解」。
作者:
淮南子(えなんじ)・劉安(りゅうあん) 古代中国、前漢の学者。前179〜前122。姓は劉、名は安。高祖の孫で、淮南(わいなん)王に封ぜられた。読書を好み、賓客や方術の士を招き、諸家の思想・学説を記述、編集した。
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源五郎は昼前の寄り合いを終え、戻ってから、三吉と四郎に継ぎ手の1つを教えているところだった。
四郎の方は正確さを期(き)する余り仕事が遅い。三吉の方は早いけれど仕上がりが雑ときている。
ふたりの出来上がりの節目が丁度合ったのが8つ(14時頃)過ぎで、休憩の頃合いだった。
そこへ、また、折り良く飛び込んできたのが熊五郎だった。

>熊:親方、大変です。
>源:なんだ熊、現場はもう引き上げてきちまったのか。
>熊:それどころじゃねえんで。実は、二助が行き方知れずになっちまったんで。
>源:なんだと? 3日前にうちんとこへ来たばかりじゃねえか。一体どういうことだ?
>熊:それだけじゃねえんで。お咲坊も権太とかいう奴に連れてかれちまったらしいんで。
>源:なにぃ? お咲ちゃんもいなくなった? するってえと、二助も太郎兵衛絡(がら)みなのか?
>熊:確かなことは分かりやせんが、有り得そうなことだと思います。

熊五郎は、半次から聞いたことを説明した。

>源:そうか、お咲ちゃんは自分から付いていったのか。ふうむ、・・・それならまだ救いようがあるな。
>熊:どういうことですかい?
>源:暫(しばら)くは手荒なことをされないで済むだろうってことだ。安心しろ、それほど大それたことにはならねえ。
>四:どうしてそんなこと分かるんですか?
>三:おいらも聞きてえです。
>源:そう慌てるな。おい、五六蔵を呼んでこい。
>熊:間もなく八の奴が連れてくると思いやす。
>源:そうか、それじゃあ、五六蔵が来るまで茶でも飲んで待ってるとするか。

源五郎が奥に向かって「おーい」と呼ばわると、茶菓子を持ってあやが現れた。

>あや:あら熊五郎さんもいらしてたの?
>源:お咲ちゃんが権太に連れて行かれたってんで慌てて飛び込んできたんだ。
>あや:あら、大変なことじゃないですか。良いんですか? どっかりと腰を据えちゃって。
>源:大丈夫だ。今日のところは使いを1人立てれば済むだろう。
>熊:今日のところはって、それじゃあ今日だけじゃあ解決しないってことですか?
>源:残念ながら3日ぐらい懸かっちまいそうだな。
>熊:なんで3日なんです?
>源:まあ、五六蔵を待とう。説明はそれからだ。

程なく、八兵衛に手を引かれて五六蔵が現れた。

>源:腹具合いはどうでえ?
>五六:へえ、歩けるくらいには。
>八:こいつ、梅の実を食ったらしいんです。それが何個だと思いやす? 十(とお)ですぜ、十。
>熊:お前ぇ、よく死ななかったな。普通は毒に当たってお陀仏だぞ。
>五六:へえ、飲み始めたときは3つしか取ってきてなかったんですが、後から見たら、種がこう三角に四段並んでやして。魂消たのなんのって。
>熊:よっぽど頑丈にできてるんだな、お前ぇ。
>源:五六蔵、具合い悪いところ呼び立てて済まなかったな。八から聞いただろうが、太郎兵衛が動き出しやがったみたいなんだ。やつの近況を知ってるとこまで話して呉れねえか?
>五六:へい。先月から頻繁(ひんぱん)にある船宿(ふなやど)へ出向いてるようです。相手はお武家のようです。
>源:普請奉行の与力、鳴門某(なにがし)。
>八:親方、ご存知なんですかい?
>源:今朝の寄り合いで、田原の父つぁんとこの人に耳打ちされたんだ。
>熊:その鳴門ってのが何ですって?
>源:神田辺りの、何とかいう口入れ屋から賂(まいない)を受け取ってるってんだ。
>あや:その口入れ屋ってのは、もしや・・・
>源:ああ。恐らくそうだろうよ。これでその鳴門某と太郎兵衛が結び付いたって訳だ。
>八:流石(さすが)親方、冴えてなさる。
>熊:それで、親方? 例えばですよ、悪巧(わるだく)みか何かを偶然聞いちまったってことで、二助がいなくなったのは説明できますが、お咲坊はどう関わってくるんです?
>源:本当に呼び出されたのはお咲ちゃんじゃねえってことだよ。
>熊:どういうことですか?
>八:誰が目当てだっていうんです?
>源:こいつのだよ。

源五郎は、そこに侍っている新妻の方へ顎をしゃくった。

>源:実はな、3日後にちょっと規模の大きい入れ札がある。その結果、指定のお店(たな)ともなりゃあ一財産になる。それだけじゃねえ、御用達(ごようたし)と名が付きゃ押しも押されもせぬ大店の仲間入りだ。
>八:妙な噂なんか、立たないに越したことはねえってことですね。
>源:それで、釘を刺しに長屋へこいつを探しに来たってことじゃねえのかと、俺は思う。
>あや:わたしがここにいることをまだ知らなかったんですね。
>八:まるで夜逃げみたいに鮮やかでしたからね。
>熊:喩(たと)えが下品だぞ。
>八:済いません。
>あや:それじゃあ、お咲ちゃんを迎えに行かないといけませんね。
>源:まあ待て。ここでお前ぇが行ったら、また拗(こじ)れちまう。三吉・四郎、ちょいと文(ふみ)を書くから、お前ぇら太郎兵衛のところに届けて呉れねえか?
>三:そのくれえなら、おいら独(ひと)りで充分でさ。
>八:お前ぇの方向感覚じゃ、いつになっても着きゃしねえだろうよ。
>三:仰(おっしゃ)る通りで。
>熊:それで、親方。お咲坊はすぐに返しちゃあ貰えねえんでしょうかねえ。
>源:あまり期待しねえ方が良いな。太郎兵衛も奴なりに奥の手を持っていたいだろうからな。
>熊:手荒なことされやしないでしょうね。
>源:ああ大丈夫だ。唯(ただ)な、二助の身柄の方はちょいと心配だがな。
>熊:鳴門某の腹一つってことですか。
>八:真っ黒い腹をしてやがるんだろうな、きっと。梅の実の十や十五じゃあ、びくともしねえんだろうよ。
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