141.【き】 『木で鼻を扱(こ)くる→括(くく)る』 (2002/08/12)
『木で鼻を扱くる・木で鼻を括る』
1.酷(ひど)く無愛想に振る舞う。冷淡にあしらう。 例:「木で鼻を括ったような応対」
 
類:●木で鼻●木で鼻をか)む●邪険●けんもほろろ
2.さっぱりする。 
用例:俚言集覧「木で鼻をこくったやう、さっばりした事」
★「こくる」は、こするの意。「くくる」は「こくる」の誤用が慣用化した語<国語大辞典(小学館)>
★木で鼻をかみこくるで、木で鼻をかんでは紙と違ってしなえようがないように、我れ関せずでまるきり情愛がない意である。<『
倭訓栞』後篇>
文献:
倭訓栞(わくんのしおり) 辞書。谷川士清(ことすが)編。安永4年(1775)頃〜。93巻・上中下後4冊。古語・雅語・口語を集め、出典、注釈を加えた。近世の辞書としては珍しく見出し語を五十音順に並べている。刊行は子孫によって明治20年(1887)終結した。
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「だるま」で四郎の祝いの会が始まる頃、源五郎は市毛道場を訪ねていた。
媒酌(ばいしゃく)の役をやることになるだろうという、確認の意味合いも、勿論あった。
しかし、それよりも、「ちょっと気になるのよ」と言ったあやが何に気を止めたのか、見極(きわ)めておきたかったのだ。

>聡:まあ、源五郎親方お一人なの? 静(しずか)ちゃんでも連れてきて呉れたら良かったのに。
>源:言っときやすがね、若奥さん。余所(よそ)の子供を可愛がってる暇があったら、自分の子供を拵(こさ)えた方が良いと思いやすがね。
>聡:まあ。親方でもそんな軽口(かるくち)を言うのね。ちょっと見直しちゃった。
>源:変なとこで見直さんでくださいよ。
>聡:まあ、照れちゃって。可愛い。
>源:敵(かな)わねえな、若奥さんにゃ。

>聡:およねさんと話をしに来たんでしょ?
>源:およねさんとっていうよりも、四郎の兄さんとその友達の人でやすかね。
>聡:そうなの? ・・・きっと、へとへとに疲れちゃって、満足に歩いてこられないわよ。
>源:なんか揉(も)めやしたか?
>聡:そうじゃないのよ。うちの剣士殿がお鍛(きた)え遊ばしちゃったの。
>源:相手は百姓(ひゃくしょう
)ですぜ。何も剣を握らせたりしなくったって・・・
>聡:そうじゃないのよ。・・・吾作さんの方からやらせて呉れって言ってきたのよ。
>源:二郎さんもですかい?
>聡:そうなの。長旅をしてきた後だっていうのに、元気よねえ。
>源:元気とかそういう問題じゃねえですよ。きっと何か訳があるんでしょう? なんか言ってなかったですかい?
>聡:別に何も。大方(おおかた)、道中で追い剥(は)ぎかなんかに会ったんでしょ?
>源:仮令(たとえ)そんなことがあったにしても、真逆(まさか)、取り返すためにって訳じゃねえでしょう。
>聡:そうかしら。あたしは追い剥ぎ退治だと思うな。だって、そういうことにしといた方が面白そうじゃない。・・・どう?
>源:どうって聞かれやしても・・・
>聡:いっそのこと、源五郎親方も一緒になってお稽古してみたら?

聡(さと)と話していると、どうも調子が狂う。人の妻とはいえ、まだ17歳なのだ。
そして悪いことに、更に妙(みょう)な調子になってしまうのが、夫の方である。

>竜:おう、これはこれは、いつぞやの月下氷人では御座らぬか。なるほど、そこな吾作の妹の婚儀にも媒酌(ばいしゃく)の労をお執りか?
>源:へえ。そういうことになりやす。
>竜:媒酌人のことを「盃親(さかずきおや)」と呼ぶそうではないか。・・・と、いうことは、其許(そこもと)を介して、この銚子と吾作は義兄弟ということになる。しかも、この銚子の方が半年早いから、義兄(あに)ということである。
>吾:はあ?
>竜:「はあ?」ではないわ。義兄であり剣の師でもある訳だ。どうじゃ? 嬉しかろう。
>吾:へ、へい。そりゃあ勿体ねえ話でやんすが・・・。なあ二郎。
>二:おらも義兄弟なのか?
>吾:そりゃあ、四郎の兄(あん)ちゃんなんだからよ、そういうことになるんだろうよ。
>竜:ごちゃごちゃ言っとらんで、さあ立ちませい。続きをやるぞ。

>源:ま、まあ、待ちなさいまし、銚子様。
>竜:なんだ? 盃親の大工・源五郎殿?
>源:うちのあやのやつが、妙に気を揉んでおりやして。
>竜:奥から聞いたが、身重だそうな。何かと心配事もあろう。
>源:うちのやつのことじゃねえんで。吾作さんと二郎さんのことでやすよ。浮かない顔をしてるのは、旅の疲れだけじゃねえでしょう? 田舎(いなか)で何かあったんじゃねえんですかい?
>吾:それが・・・
>二:吾作。黙ってろ。
>吾:けどよ、二郎。源五郎さんなら信用できそうだし・・・。それに、腕っ節も強そうだし。
>竜:何っ? 腕っ節が必要なのであれば、何故この銚子竜之介に頼まん? それではまるで、大工・源五郎殿が我(われ)よりも強いみたいではないか。
>吾:そ、そんな意味で言ったんじゃねえんでやんす。農民のことにお武家様を巻き込む訳にゃあいかねえでやんすから。
>竜:ほう。やっぱり何かあるのだな? 良かろう。関わる関わらないは別として、話を聞こうではないか。
>二:ちょいと待ってお呉んなさい。下手(へた)に掻き混ぜられちゃあ村のもんにも迷惑が掛かり兼ねないことでやんすから、もうちいと考えさせちゃ貰えやせんか?
>竜:そなたらが考えずとも良い。下手の考えなど休むに似たりだ。きりきり喋りませい。
>二:そんな横暴な・・・
>竜:横暴は剣士の特権。なんなら腕尽く口を割らせても良いのだぞ。
>源:まあまあ、そう押さえ付けなくても良いではありませんか。・・・どうだい二郎さん、相談に乗らせちゃあ貰えねえか?

終(しま)いには二郎も折れた。
「どこにでも転がってる話でやんすが」と前置きして話し始めた。
山口某(なにがし)という代官が「6公4民」の重い年貢を要求して、足りない分は敲(たたき)刑で埋めるのだという。
女子供もお構いなしで、である。手ずから竹棒を握る代官は、それはもう憎々しげに笑うのだという。

>竜:けしからん。武士の風上にも置けん奴だ。この銚子が成敗(せいばい)して呉れるわ。
>源:ま、待ってくださいまし、銚子様。
>竜:何故(なにゆえ)止める。悪を懲(こ)らしめるのが「正義」であろう?
>源:その通りではありましょうが、そいつはお上の仕事です。お奉行様とかお目付の方に任せるのが筋ってもんです。
>竜:そういう輩(やから)は江戸市中のことで手一杯であろう。下野などには誰も出向かん。ならば、この銚子が行っても良いではないか。
>源:行くのは結構なんですが、銚子様には、残念ながら捕まえるお許しがねえんです。下手(へた)に手を出すと咎(とが)になっちまいやす。
>竜:面倒な世の中であるな。悪を倒して咎になるとはな。「一日一善を心掛けよ」が聞いて呆れるわ。免状を持った者でないと悪人退治ができないなどと誰が決めたのだ?
>源:そりゃあ、ご公儀でしょう?
>竜:そんな公儀だから、悪者が跋扈(ばっこ)するのだ。ああ口惜(くちお)しい。

>源:然(しか)るべきところへ届ければ、お許しが出るかもしれません。
>竜:然るべきとは役人のところということか? 冗談も休み休み言うが良い。役人など重箱の隅ばかり突付いて居って、民のことなど考えては居らぬわ。
>源:そういうお人たちばかりじゃあねえでしょう?
>竜:決まっとるわ。そうであったなら、松平の家など疾(と)っくの昔に滅亡しておる。しかし、大方の役人は天狗になっておる。こちらが下手に出てやっておれば好い気になって、偉そうに「今は手が放せぬ故明日来るが良い」と来る。
>源:なんか役人に個人的な恨みでもあるんでやすか?
>竜:私事(わたくしごと)だ。気にするな。・・・だからだ、結局のところは、役所になど届け出るのは嫌だということだ。
>源:それじゃあ埒(らち)が明きやせんや。・・・どうでしょう? あっしに任せてみて呉れやせんか?
>竜:お主に伝手(つて)があると申すのか? 冗談も程々にするが良い。
>源:お約束はできねえんですが。
>竜:ははあ、柿本猪ノ吉師範代の友人とかいう「鴨の旦那」にでも頼もうというのであろう。無理無理。所詮(しょせん)は下級与力。なんの足しにもなりはしない。
>源:いえ、違うんですよ。内房正道というお人です。なかなか聞く耳を持ったお人ですよ。
>竜:何? あの煩(うるさ)型と知り合いなのか?
>源:2・3度話をした程度ですがね。
>竜:そんな程度では期待薄だな。洟(はな)も引っ掛けては呉れまいよ。門前払いを食わされるのが関の山だ。
>源:あっしんとこに居る八兵衛って野郎が、懇意にさせて貰ってるんです。八の言うところじゃ2人は「臭(くさ)い仲」なんだそうで。
>竜:どういう間柄だか・・・

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