74.【え】 『蝦(えび)で鯛(たい)を釣(つ)る』 (2001/04/23)
『蝦で鯛を釣る』
僅かな元手で多くの利益を得ること。また、僅かな贈り物をして多大の返礼を受けること。略して「えびで鯛」とも。
類:●麦飯で鯉を釣る●Throw a sprat to catch a whale. 鯨を捕るのに小魚を投げる<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典
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一先(ひとま)ず、英二がどう動くのかを探(さぐ)ろうということになった。

>熊:こんなとき一番頼りになりそうなのが与太郎だっていうのも変なもんだな。
>八:だから言っただろ? 野菜売りの下っ引きは使えるって。
>熊:使えるってったって、与太郎だぞ。あの与太郎。
>八:まあ、それに付いちゃあ、言い出したおいらも吃驚(びっくり)してるんだかよ。
>熊:嬉しい誤算だな。って言うよりも、瓢箪から駒か?
>八:なんだそりゃ? 瓢箪の蔓(つる)で独楽(こま)でも回そうってのか?
>熊:そうじゃねえ、瓢箪の口から馬が出てくるってことだ。
>八:そりゃあとんでもなくでかい瓢箪だな。どこで採れるんだ? いや、別に、買いたいっていう訳じゃねえがよ。
>熊:あのな、実際には有り得ないことが起こったみたいに、凄(すご)いことだっていうときに、そう言うの。
>八:そうか、成る程ね。それじゃあ、与太郎の奴はよ、随分小振りな馬ってことだな?
>熊:まったく、なんにも分かっちゃいねえな。

朝方話したとき、与太郎には、何か分かったら報(しら)せに来て呉れと言ってあった。
その与太郎が七つ(4時)の頃に、現場にやって来た。

>与:八兵衛さんって、本当にちゃんと働いてるんですね。
>八:どういう意味だよ。こう見えてもな、親方の一番弟子なんだからな。頼りにされてんのよ。
>熊:どうだか。
>八:で? 何か分かったのかい?
>与:はい。小間物屋の生駒(いこま)屋さんって知ってますか?
>熊:どっかで聞いたことがあるな。
>八:それって、姐(あね)さんの前のご亭主が手代をやってたっていうお店(たな)じゃねえのか?
>熊:お前、そういうどうでも良いことは覚えてるんだな。
>八:良いじゃねえかよ。・・・で、その、生駒屋がどうかしたのか?
>与:店先で屯(たむ)ろしてるんだそうです。
>八:ちょいと待て。確か、生駒屋は明神下(みょうじんした)とか本所(ほんじょ)とかの方じゃなかったか? 随分遠くまで足を伸ばしてやがるな。
>与:八兵衛さん知らないんですか? 先ごろ売り出した白粉(おしろい)が物凄く良く売れたというんで、去年、暖簾(のれん)を分けて、本郷の辺りに店を開いたんですよ。
>八:白粉って、あの、何とかいう口入れ屋の女将(おかみ)の、あれか?
>熊:そうらしいな。
>八:あれまあ。生きていなすったら、店主になったのは姐さんのご亭主だったろうにな。
>与:そうなんですか?
>八:そうよ。その白粉を作ったお人だからな。へえ、そいつは凄(すげ)えな。お店の女将さんか・・・
>熊:そんなこと話してたってしょうがねえだろう。今は英二のことをなんとかしなきゃならねえんだからな。
>八:分かってるって。それで? その、姐さんのご亭主の店だった筈の生駒屋分家がどうしたって?

>与:小間物屋に来るお客さんといえば若い娘たちでしょう?
>八:そうなのか? おいらはまた、口入れ屋の婆(ばば)ぁみたいな皺くちゃなのばかりかと思ってたぜ。
>熊:そういう人たちのところには、背負子(しょいこ)を担(かつ)いだ手代みたいのが回って行くの。
>八:そうか。年寄りは歩くのが厄介(やっかい)だもんな。
>熊:そういう意味じゃねえったら。お大尽(だいじん)様たちはな、態々(わざわざ)店まで行って物欲しそうに品物を見てたりしないの。
>八:なあるほど。粋(いき)じゃねえわな。
>熊:そういうこと。
>与:店に品物を見に来る娘たちを呼び止めちゃあ、まじまじと顔を見てるって話ですよ。気持ち悪がって、もう行きたくないって言ってる娘も1人や2人じゃないみたいです。
>熊:商(あきな)いの邪魔だな。
>八:許せねえ。
>熊:何か懲らしめる手立てを考えなきゃならねえな。
>八:若い娘を呼び止めて、顔を近付けて、あわよくば名前とか住んでる所とかを聞き出すなんて、許せねえ。
>熊:お前ぇ、なんか筋が違ってねえか?
>八:良いだろ? お前ぇはお前ぇの理由で、懲らしめてえと思って、おいらはおいらの理由で、懲らしめたいと思う。行き着く先は一緒だ。
>熊:変な考え方だな。・・・まあ良い。それじゃあ、早速(さっそく)今晩話し合おうぜ。
>八:与太郎も混ぜてやっちゃあどうだい?
>熊:そうだな。英二が絡(から)んでる以上、関係ないことじゃねえもんな。・・・どうだい?
>与:はい。
>熊:今回のことはおいらたちが蒔(ま)いた種だからな。与太郎の飲み代(しろ)はみんなで出し合うことにするからな。
>八:なにもそこまでしてやることはねえだろう。与太郎の方だって心苦しいだろ? な?
>与:・・・はあ。
>八:旬(しゅん)の、野蒜(のびる)のお浸(ひた)しでも、丼(どんぶり)一杯土産(みやげ)に持たせりゃ十分だ。
>熊:お前ねえ、そりゃああんまりだとは思わねえか?
>八:何を言ってやがる。おいらはな、今回のねたを太助の奴に話してやって、瓦版(かわらばん)の売り上げで、お相伴(しょうばん)に与(あずか)ろうとしてるくらいなんだぞ。どうだ? しっかりしてるだろ?
>熊:しっかりって言うよりも、ちゃっかりしてやがるよ、お前ぇは。

その晩、「だるま」では第1回目の作戦会議が開かれた。

>熊:先ずは、生駒屋の商売の邪魔をしている英二をどうするかってことを決めようぜ。
>三:その英二って奴、ほんとに、絵を見てるんですかい?
>五六:見てなきゃ探せねえだろう。探してるんだから、見たってことだ。
>熊:堺屋って聞いて恨みを思い出したくらいだ。どうせずかずかと割り込んできて、じっくりと見たんだろうよ。
>三:そうですね。・・・じゃあ、その絵に似た人を英二に会わせりゃ、生駒屋からは追っ払えやすね。
>八:そうそう見付からねえからみんなで探し回ってるんだろ? いたら、おいらが蛸のところへ連れてって、礼物(れいもつ)をたんまり貰ってるよ。
>三:そうでやした。
>夏:あら、いるじゃない、ここに。
>咲:お夏ちゃん、あんた、真逆(まさか)あたしに?
>夏:決まってるじゃない。事情の分かったお咲ちゃんなら、英二が妙な考えを起こしそうになっても臨機応変に対応できるし、あいつらがどういう風に動こうとしてるかだって逐一(ちくいち)分かっちゃうのよ。それに、なんてったって、本人なんだもの。
>咲:嫌よ。だって、徹右衛門のところへ連れていかれちゃうんでしょう?
>夏:良いじゃない、減るもんじゃなし。なんなら、また痺(しび)れ薬かなんか飲ませて、どろんしちゃえば?(※)
>咲:あんたねえ、人のことだと思って勝手を言うわね。
>八:うーん。お夏ちゃんの言い分にも一理あるな。な、そうだろ、熊?
>熊:おいらはあんまりお奨(すす)めできねえが、なんにも知らねえ娘さんが悪巧みの出汁(だし)に使われるくらいなら、その方が良いのかも知れねえな。
>咲:熊さんまでそんなこと言うの?
>夏:決まりぃ。
>咲:こらこら、勝手に決めるな。
>八:まあ良いじゃねえか。全部が丸く納まったらよ。生駒屋の白粉でも買ってやるからよ。
>咲:ほんと?
>八:ああ。姐さんに頼めば1つくらい只(ただ)で譲って貰えるだろ?
>咲:只なの? それじゃあねぇ。・・・じゃあさ、それとは別に、小間物を1つ付けて呉れるって言うんなら引き受けるわ。
>熊:まったく、ちゃっかりもここまで来ると呆(あき)れ果てるね。怒る気も出ねえ。
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※お詫び 時代考証を誤っています。
「どろんする・どろんを決め込む」は、『東海道四谷怪談(文政8年1825)』に端を発した流行語ですので、この場面の時代1801年には、まだ使われていません。