44.【い】 『鷸蚌(いつぼう)の争(あらそ)い』 (2000/09/18)
『鷸蚌の争い』
無益な争いをしていると、第三者に乗ぜられて共倒れになる。小国間の無益な争いへの戒め。
類:●犬兎の争い
故事:戦国策−燕策」 鴫(しぎ)と溝貝(どぶがい)が争っているところを、漁師が両方とも捕えてしまった。
出典:戦国策(せんごくさく) 中国の雑史。33編。前漢の劉向(りゅうきょう)編。宋の姚宏校本。戦国時代に諸国を遊説した縦横家の建策を国別に分類補正して集録。現行本は宋の曾鞏(そうきょう)が残欠を諸書で補い復元したものによる。
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どうせ混むだろうから暮れ6つ(18時頃)までに現地ということで、一行は「だるま」に集まることにしていた。
半次と松吉には六之進が声を掛けるということで一時散会(さんかい)となった。
八兵衛のしつこい誘いにも関わらず、あやは「今日は遠慮しときます」の一点張りだった。
それでも、二助と咲を併せると、総勢11人の大所帯(おおじょたい)だった。

>亭主:こりゃ、親方、お久し振りです。今日は、奥方はお連れじゃないんで?
>源:たいそうな繁盛振りだって聞いて、却(かえ)って邪魔になりそうだから止(や)めるってことで。
>亭:あの頃だって負けないくらい客が入ってましたよ。ちょいと質は違いますがね。
>八:姐(あね)さんったら、お夏ちゃんに気を使ったんですかねえ。
>熊:お咲坊にかもしれねえな。
>咲:なによ、どうせまたあやさんは大人で、あたしは子供だって言うんでしょう?
>熊:当たりだ。
>咲:なによこの唐変木ぐうたら甲斐性なし
>源:まあまあ。酒は楽しく飲もうじゃねえか。な。
>咲:親爺さん、あたしにもお酒。
>六:これ、咲。一件が落着(らくちゃく)したからといって酒は良くないぞ。
>咲:最初の一口だけよ。良いでしょ? 後は、詰まんないから、お夏ちゃんと一緒に給仕の手伝いしてる。
>八:お夏ちゃんの邪魔はするなよ。
>咲:八つぁんまでそんなこと言うの? お嫁さんの世話してあげるの止めちゃうわよ。
>八:おいらはお夏ちゃんで良いよ。
>松:手前ぇ、抜け駆けするんじゃねえぞ。おいらだって・・・
>咲:お夏ちゃん? ・・・駄目よ。お夏ちゃんはね、お武家の人としか一緒になれないの。
>八:なんで?
>咲:うちと違ってお父上が厳しいの。
>六:なんてことを。
>咲:良いの良いの、あたしはその方が気楽だから。・・・だから、そういうことでお夏ちゃんは駄目。
>八:どうあってもか?
>咲:余地なし。
>松:元武家の出の飾り職人でも駄目か?
>咲:論外

お咲は、独り身連中のささやかな夢を打ち砕いた後、少しは清々(せいせい)したという顔で店の手伝いを始めた。
六之進は、娘が客から「新しい手伝いかい?」と声を掛けられる度に、悪さでもされはしないかと、気が気ではなかった。

6つ半、約束の刻限にお夏が現れると、客たちの間から、これもお約束で、どっと歓声が沸き上がった。

>夏:あれえ? お咲ちゃん。どうやって逃げてきたの?

全員の目がお咲の方に集中した。

>咲:へへ。親方のお陰。
>夏:親方が来てるの? あ、八兵衛さんの隣(となり)?
>咲:親方、この子があたしの友達のお夏ちゃん。親方以外のみんなの報(むく)われない想いの的。
>夏:変なこと言わないの。親方、栗林夏でございます。どうぞお見知り置きを。
>源:あ、ええと、源五郎です。うちのもんが厄介(やっかい)になってるそうで。
>夏:奥方様は?
>源:今日は所用(しょよう)で来てねえですが。
>夏:なによ八兵衛さん、必ず連れて来るって言ってたのに。
>八:面目(めんぼく)ねえ。結構しぶとく粘ったんだけどな。
>源:良かったらお咲ちゃんと一緒に、塩煎餅でも食べにいらっしゃいなと、言い付かってきておりやす。
>夏:塩煎餅?
>源:あいつの好物でして。
>夏:面白い方ですね。益々(ますます)会ってみたくなったわ。
>熊:お夏坊、あんまり油売ってると、ほかの客たちが怒るんじゃねえか?
>夏:いっけなぁい。ようし、今日も張り切って働くわよぅ。

>八:親方、どうしなすったんで? 喋り言葉がぎくしゃくしてましたぜ。
>源:なんだか独特な雰囲気(ふんいき)を持った娘だな。少し圧倒(あっとう)させられちまったぜ。
>八:親方がですかい? へえ、そんなこともあるんですね。
>熊:八よ、親方はな、姐さん以外の女の前じゃ、てんで駄目なのよ。
>八:親方、嫁を貰ってもまだ駄目なんですかい?
>源:そう簡単に治って堪(たま)るもんか。
>八:やくざの親分を脅かすお人が、娘っ子1人に圧倒されるとはね。
>源:放っとけ。

>八:なあお咲坊、お父上がそんなに厳しい人なのに、夜中までこんなとこで働いてて構わねえのか?
>咲:うん。ちょっと訳ありなのよ。お父上が、心の臓を患(わずら)ってて、養生所通いをしてるの。兄上の扶持(ふち)だけじゃ賄(まかな)えなくて。
>熊:もやしも辛いとこだな。
>咲:もやし?
>熊:あいつの兄貴のことだよ。それにしても、友達の牛蒡と白菜
は何してやがるんかな?
>咲:その白菜って、もしかして、大柄で太ってる人? 鴨太郎っていう。
>熊:そうだ。会ったことあるのかい?
>咲:何言ってるのよ。お夏ちゃんの許婚(いいなずけ)じゃないの。
>熊:なんだと?
>八:許婚だあ? そんなのいたのか?
>二:おいお咲ちゃん、一つ聞いても良いかい? その鴨太郎って、捕り方をやってる妙に生真面目な奴かい?
>咲:そうよ。会ったことあるの?
>二:おいらの飲み友達よ。去年の夏以来の。
>咲:じゃあ、二助さんがいちゃもん付けてお縄を掛けられたっていうのがお夏ちゃんの許婚なの?
>熊:そうなのか?
>二:そんなこと一度だって話に出たことねえぞ。
>熊:おいおい、おいら目が回ってきたぜ。勾引(かどわか)しがあって、思わぬとこにお夏坊がいて、太郎兵衛は親方にぶん投げられた押し込みで、鴨太郎の奴が二助の飲み仲間ときちゃあな。
>八:そんで以って、おいらと松つぁんの恋路は、燃え上がる前に消えちまうしな。
>半:そっちの方は日常茶飯事じゃなかったか?
>松:なにをー?
>熊:まあまあ。こんなとこで喧嘩してたってよ、白菜に取られちまってちゃ、お話にもなんにもなりゃしねえ
>八:そういうこったな。なあ二助よ、今度その鴨公をここに呼んどけよ。梅雨時の暇潰しくらいにはなるだろう。
(第4章の完・つづく)−−−≪HOME

※お詫び 時代考証に誤りがあります。正しくは、以下の通りだそうです。
白菜の歴史は意外に浅く、初登場は明治8年、東京博覧会 に中国(当時・清)からの出品という形でお目見え。<京都魚国(株) 栄養士 久保芳恵氏島津医用グループ
ここ以前の「鴨太郎」については、
「白菜」を「葱(ねぎ)」に、「大柄で太っている」を「痩せててひょろ長い」に、それぞれ読み替えてください。