11.【あ】  『羹(あつもの)に懲(こ)りて膾(なます)を吹(ふ)く』 (2000/01/24)
『羹に懲りて膾を吹く』[=韲(あえ)を〜]
熱かった吸い物に懲りて、ついつい膾や韲物(あえもの)のような冷たい料理も吹いて冷ますということから、一度しでかした失敗に懲りて、必要以上の用心をすること。
類:●船に懲りて輿(こし)を忌む●呉牛月に喘ぐ蛇に咬まれて朽ち縄に怖じる火傷火に怖じる●A burnt child dreads the fire.(やけどした子供は火を怖がる)<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典> ●Once bitten, twice shy. ●A burnt child fears the fire.
反:●火傷火に懲りず
出典:「楚辞−屈原・九章・惜誦」「懲於羹者而吹韲兮、何不変此之志也」
出典:楚辞(そじ)    中国の書。16巻。漢代。劉向(りゅうきょう)編と伝える。楚の屈原とその門下、及びその体に倣(なら)った作を中心に集めた詩歌集。のち、王逸が編集し直して17巻にした。楚地方の文学で巫史(ふし)の歌唱に起源を持ち、屈原によって文学的に高められ、集大成されたものと推定される。特に「離騒」は屈原の代表作。
人物:屈原(くつげん) 中国、戦国時代の楚の政治家・文人。名は平。字は原。前340頃〜前278頃。楚王の一族で懐王(かいおう)に信任され、左徒、三閭大夫となる。傾襄王(けいじょうおう)のとき、中傷にあって江南に追放され、時世を憂えて悩みを苦しんだ末、5月5日汨羅(べきら)の淵に身を投じた。「楚辞」の代表作家で、その抒情的叙事詩「離騒」は後世の文学に大きな影響を与えた。ほかに「天問」「九歌」など。
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五六蔵は、久七から聞いた後何度も繰り返し想像して膨(ふく)らみ切った映像を皆にも見せたいとでもいうように、大仰(おおぎょう)な手振りを付けながら続きを話した。

>五六:千切(ちぎ)っては投げってぇ言いようがあるだろう? 正(まさ)にそれだったそうだ。ぶん殴られた下っ端(ぱ)2人は衾(ふすま)を突き破って隣りの部屋まで飛んでった。殴(なぐ)り掛かった奴は脳天を叩かれて蛙みてえに畳の上に貼り付いた。そして、なんてったてその次の奴が凄(すご)い。小物たちの無様(ぶざま)な姿を見て前へ出てきたのは30貫(=約113キロ)もある大男だった。
>半:うへぇ、おいらが2人分だぜ。
>五六:そいつが、覗(のぞ)き見してた障子窓の方に向かって吹っ飛んできたときにゃ、久七さんも思わず首を引っ込めたそうだ。久七さんはその大男の下敷きになってその後は見られなかったそうだが、立ち上がった時には、盗賊の親分は腰が抜けてへたり込んでたそうだ。そりゃあそうだろうよ。考えられるか? 30貫だぞ、30貫。
>半:並みの人間じゃあ持ち上げるのだって大変だ。
>八:へえぇ、親方って、そんな凄(すげ)えお人だったんだ。

源五郎は仏頂面(ぶっちょうづら)のままである。

>熊:親方、ときに、どうして木場なんかに行ってたんです?
>源:どうでも良いだろうそんなこと。
>熊:良かないですよ。教えてくださいな。
>源:親父(おやじ)に言われてな、材木の善し悪(あ)しを見分けられるようになれって。山城屋さんに修行に出される筈だった。けどな、騒ぎを起こしちまって、どの面下げて修行でございなんて言える? 山城屋さんには会わずに蜻蛉(とんぼ)返りよ。親父にはお目玉貰うし、まったく、碌(ろく)でもねえ日だったぜ。尤(もっと)も、山城屋さんは火事で豪(えら)いことになってるってのは後で知ったことで、行ったところで、どうしようもねえようだったがな。
>五六:やっぱりそうでやしたか。お見逸(みそ)れしやした。
>ごろ2・ごろ3:お見逸れしました。
>八:『お見逸れの五六蔵』って名前に変えるんだな。

>五六:源さん、いや、源五郎さん。あっしたちを使ってやっちゃあ貰えやせんか。
>源:なんだと?
>五六:それこそ見習いの見習いで構いやせんから。おい、手前ぇたちもお願いしろぃ。
>ごろ2・ごろ3:お願いしやす。
>源:やれやれ・・・
>八:親方、するってえと、こいつらおいらたちの子分ってえことになりますよねえ?
>熊:そりゃあ良い。びしびしやっても良いんですよね?
>源:どいつもこいつも・・・。勝手にしろ。親爺(おやじ)、済まんがここにいるみんなに1本ずつ付けてやって呉れ。俺の奢(おご)りだ。

>亭主:それが、みんなの分はもう酒がないんで。
>五六:なにを? 源五郎さんに飲ませる酒はねえってのか?
>亭主:そ、そんな、滅相もない
>源:五六蔵さんよ、弱い者には高飛車で、強い者には媚び諂(へつら)う、俺はそういう奴が一番嫌いなんだ。
>五六:へ、へい。改めやす。
>源:親爺、樽のまんまで構わねえから出して呉んな。どうせもう店仕舞(じま)いだ。親爺と、あやさんもこっちに来てちょいと引っ掛けちゃあどうだ?
>亭主:へい、喜んで。料理も全部出しちまいます。

>半:・・・よう、五六蔵さんとやら。
>五六:へぇ。なんで御座いましょう?
>半:気持ち悪(わり)ぃから、そんなにおどおどするんじゃねえよ。そういうのを『熱いうどん食って火傷(やけど)した奴は心太(ところてん)もふうふうして食べる』ってんだ。・・・おいらはな親方んとこの舎弟(しゃてい)でもなく、唯(ただ)の常連なんだからよ。喧嘩仲間じゃねえか。要するに、五分と五分だ。違うか?
>五六:そうか、それもそうだな、半公。
>半:半公ときやがったか。簡単で良いな、お前のお頭(つむ)はよ。
>五六:そんなに誉(ほ)めんなって。
>半:お前ぇが踏み倒したここの勘定なんだがな、おいらの記憶が正しければ、3人分併せて2朱と140文、壊(こわ)した食器が110文、併(あわ)せて3朱(=約15,000円)丁度ってとこだ。そんなもんだろう、親爺?
>亭主:へい、それだけ貰えるんなら、御の字で。
>五六:お、お見逸れしやした。
>八:やっぱり『お見逸れの五六蔵』に決まりだなこりゃ。
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