48.【い】 『犬(いぬ)も歩(ある)けば棒(ぼう)に当(あ)たる』 (2000/10/16)
『犬も歩けば棒に当たる』
1.物事をしようとする者は、それだけに災難に逢うことも多いものだ。 類:●男は閾を跨げば七人の敵あり 反:●果報は寝て待て ★犬が町中をうろうろしていると、訳もなく棒で叩かれたりすることから。
2.何かを続けていれば、思い掛けない幸運に会うこともあるものだ。また、才能のない者でも、何度もやっているうちには巧く行くこともある。  類:●Every dog has his day.
1.が原義。2.は後世に付けられた意味。
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熊五郎たちが今掛かっている仕事は、それほど急ぎの段階ではなかった。
源五郎も進み具合いを見て、これなら昼に上がっても良いだろうと判断し、昼飯のときにそれを告げた。

>源:五六蔵、道具は錆(さ)びねえように見といてやるから俺のところに置いていけ。
>五六:何から何まで面倒見て貰っちまってすいません。なるべく早く帰ってきやすんで。
>源:ちゃんと、親父さんに勘当(かんどう)を解(と)いて貰ってこいよ。
>五六:へい。誠意を示せば分かって呉れると思いやす。
>熊:急げば盆に間に合うか?
>五六:へい。飛んで帰りやす。
>八:道中気を付けろよ。親方からたんまり貰っちまってるんだからな。
>五六:こいつは、借りたもんだと考えることにしやす。一端(いっぱし)の大工になれたら、銭じゃなくって腕でお返ししやすんで。
>八:泣かせるねえ。
>源:荷(に)の準備もあるだろう。お前ぇは先に帰って支度(したく)してこい。三吉、五六蔵の道具を俺んところまで担(かつ)いでこい。
>三:へい。承知しやした。
>源:俺は見送りには行かねえが、お前ぇたち、切りの良いところまで付いてってやれ。
>熊:分かりました。本郷まで行ってきます。
>八:それじゃあ、道具を置いたら五六蔵のところに集まるってことで。
>源:じゃ、達者(たっしゃ)でな。

熊五郎、八兵衛、三吉、四郎の4人に見送られて、五六蔵は旅立った。

>八:お前ぇたちは田舎(いなか)に帰らなくても良いのか?
>三:おいらのところは両親と死に別れてやすんで、必要ありやせん。
>四:うちも似たようなもんですから。
>熊:気になる言い様だな。
>四:うちは干瓢(かんぴょう)を作ってるんですが、干瓢が寿司ねたになってからこっち随分景気が良いみたいで、左団扇(ひだりうちわ)らしいです。おいらは野良(のら)仕事に向かないから、3年に1回くらい便りを出しとけばなんの心配も要(い)りません。
>熊:そうか、それなら良いが。
>八:お前ぇたちこれから予定はあるのか?
>三:兄貴がいないんじゃ何をする気も起きませんや。
>四:兄いたちに付いてきゃ、なんかご馳(ち)になれるんじゃないかと思ってたところで。
>八:こりゃ参ったね。ちゃっかりしてやがる。・・・それはそれとして、ちょいと付き合って貰いたい所があるんだがな。
>三:どうせやることがないですから、どこなりとお供(とも)しやす。
>四:で? どちらまで?

>八:お前ぇたち、海産物問屋の堺屋って知らねえか?
>三:行ったことはねえんですが、道で擦れ違ったことはありやすよ。倅(せがれ)と一緒でした。
>四:その倅ってのがとんだ鼻摘(はなつま)みもんで、綺麗な娘と見りゃあ片っ端から声を掛けるって、評判の好色者なんですがね・・・
>八:その好色者に会ってみてえんだ。
>三:真逆(まさか)、兄い、そういう趣味じゃありませんよね。
>八:馬鹿なことを言うな。これから、そいつを懲(こ)らしめようって算段するために集まるんだがよ、熊の野郎が見たこともねえやつを甚振(いたぶ)るのは気が進まねえって言うもんでよ。
>三:そういうことでしたか。面白そうですね。
>熊:お前ぇたち、そいつの顔が分かるんだな?
>三:へい。一遍見たら忘れられませんや。なんかこう柳みたいになよなよしてやがる奴ですよ。
>八:蛸みてえにふにゃふにゃしてる奴だろ?
>三:そうも言えますね。
>四:海産物問屋だけにですか? 上手(うま)いこと言いますね。
>八:だろ?
>熊:そんなことどうでも良いから案内して呉れるか?
>三:分かりやした。唯(ただ)、お店(たな)はすぐ近くなんですが、そこには居ねえと思いますよ。いつもは小石川後楽園辺りをぶらついてるってことですんで。
>八:そんなこと良く知ってるな。
>三:実は、銭になるかも知れねえってんで、目を付けてたことがあるんで。
>熊:五六蔵も一緒にか?
>三:いえいえ、おいら1人でですよ。言おうかどうしようかってときに足を洗っちまいやしたから。
>熊:そうだろうな。知ってりゃ、八幡様で覗(のぞ)きをしてたときに徹右衛門だって分かってた筈だもんな。
>三:兄貴ったらそんなことしてたんですか?
>八:まあ良いじゃねえか、独(ひと)り身の男なんだから、少しむらむらっと来ることもあるだろ。

無駄足でも、先(ま)ず堺屋のお店を見に行こうということになって、一行はそちらへ向かって道を折れた。
先頭を歩く八兵衛が、辻を曲がったところで、向こうから走ってきた者とぶつかった。

>八:あいたたた。気を付けろぃ、どこに目を付けてやがるんでえ。
>男:済まねえ。怪しい奴を追い掛けてたもので。
>八:なんでえ、捕り方かい。それじゃあ仕方ねえな。
>熊:おっ、鴨太郎。お前ぇ、鴨太郎じゃねえか?
>鴨:え? もしかして、熊ちゃんかい?
>熊:そうよ。久し振りだなぁ。
>鴨:なんだい? ここいらに用かい? なんなら付き合うぜ。
>熊:誰かを追っ掛けてたんじゃねえのかい?
>鴨:ああ良いんだ良いんだ。別に何かをやらかしたって訳じゃねえから。ただ、怪しかったってだけだからな。
>熊:そうか。ちょいと堺屋にな・・・
>鴨:買い物かい?
>熊:いや、ちょいと見に行くだけさ。
>鴨:なんだよ。男4人がぞろぞろと、唯見に行くだけってことはねえだろう。
>熊:まあな、ちょいと訳ありでな。
>鴨:何を隠してるんだよ。水臭(くせ)えな、俺たちの仲じゃねえか。何か困ってるんなら力になるぜ。
>熊:でもなあ、捕り方のお前ぇにこんなこと相談するのもなあ・・・

>八:何言ってやがんだよ。捕り方の前に友達なんだろ? 話しちまえば良いじゃねえか。・・・あ、おいら、熊の同輩(どうはい)の八兵衛ってもんで、話は何かと聞いてやして。
>鴨:こりゃどうも。さっきは突き飛ばしちまって済まないことをしたねえ。
>八:いやいや。熊の友達なら怒る訳にもいかねえさ。
>鴨:いやあ懐(ふところ)の深い人で良かったよ、なあ熊ちゃん。・・・それで? どういうことなんだい?
>熊:ああ。実はな、徹右衛門のことをちょいとな・・・
>鴨:ああ、あの女誑(たら)しかい。どうした? 女でも寝取られたか?
>熊:そんなんじゃねえんだが・・・
>八:まどろっこしいな、しゃんとしろよ。実はね、あんまり酷えことしやがるんでちょいと取っ締(ち)めてやろうとしてるんだ。
>鴨:ちょっとだけか?
>八:へ?
>鴨:ちょっとだけしか取っ締めねえのかって聞いてるんだ。
>熊:どういう意味だ?
>鴨:俺もあいつの遣り様は腹に据え兼ねててね、今度何かやらかしたらふん縛(じば)ってやろうと思ってたとこだ。
>八:こりゃあ良い。どうだい? 混ざるかい?
>鴨:面白(おもしれ)え。乗るぜ。
>八:これで、8人になったな。蛸野郎の足の数と同じになったじゃねえか。
>熊:おいおい・・・
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