07.【あ】  『麻(あさ)の中(なか)の蓬(よもぎ)』 (1999/12/13)
『麻の中の蓬』[=麻につるる蓬]
麻のように真っ直ぐなものの中に混じって生えれば、蓬も自然に曲がらずに伸びるということ。善良な人と交わっていれば、感化されて、自然に善人になるということの喩え。
反:■藪の中の荊
 ★「蓬」は曲がったものや捻(ね)じれたものを比喩する。
出典:「荀子−勧学篇」 「蓬生麻中不扶而直」。
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八兵衛が3本目の銚子を頼んだところへ、熊五郎と源五郎が到着した。

>源:話とはだいぶ違うじゃねぇか、熊。
>熊:へえ、おいらも魂消(たまげ)てるとこでして。おい八、こりゃいったい・・・
>八:決まってんじゃねぇかよ、あやさんが綺麗にしたんだよ。
>熊:へぇーっ。ゆんべ来たときとは見違えるねえ。どんなことしたら1日でこんなになっちまうかねえ。
>亭主:やい熊、お前ぇもう少し言いようってものがあるだろう。それで、そちらさんが?
>熊:いつも世話んなってる親方だ。粗相(そそう)のねえようにな。
>亭主:するってえと、棟梁の倅さんかい?
>源:親父のこと知ってなさるのかい?
>亭主:そりゃぁもう、この辺りで大工の源さんを知らなかったら、そいつぁあ潜(もぐ)りだ。それにしても良かった。八の野郎が、怖いお人をお連れするって脅(おど)すもんだから、冷や冷やしてたとこですよ。

>源:源五郎って言いやす。いつも八と熊が厄介(やっかい)になっているそうで。
>八:そいつは違うよ親方。面倒見てやってるのはこっちの方だ。なあ熊?
>熊:お前ぇ飲み過ぎてんのか? あんまり高飛車になってるとお里が知れちまうぞ。それに、親方の束(たば)ねの方便(ほうべん)だって疑われちまうじゃねえか。
>八:済いません親方。乗り過ぎちまいやした。
>亭主:まあまあ、堅いことは言わないで、お掛けくださいまし。おーい、あやさん、こちらさんにお酒を出してあげと呉れ。
>あや:はーい、只今。

>源:熊五郎、お前の口から「方便」だなんてえ言葉が出るとは驚いたな。そんなの、今どきじゃ坊主だって言いやしねえぞ。
>熊:そうですかい? そんな難しい言葉ですかい?
>八:お前ぇ、坊主の修行でもしたか?
>源:「遣り方」とか「遣り様」って言いやがれ。学がある訳じゃあるめえし。
>熊:何を仰(おっしゃ)いますやら。こう見えてもおいらが生まれたの家の、裏の斜(はす)向かいの3軒隣りに寺子屋があったんですから。
>源:真逆(まさか)とは思うが、通っていたのか?
>八:そーんな訳、あるわきゃあないでしょう。
>熊:図体のでかいのがもやしみてぇなのを苛(いじ)めてたんで、通り掛かりに助けてやったんでさあ。そいつが小難しい俚諺(りげん)とかいうのや格言とかってのばかり喋る奴でして。
>八:もやしに好かれたか?
>熊:本人は学をひけらかすつもりなんか更々(さらさら)ないらしいんですけどね、あれじゃぁ、苛(いじ)められても仕方ねえのかなあって思ったくらいで。
>源:それでも暫(しばら)くはそのもやしとつるんでたんだろう?
>熊:へい。そいつの仲間の牛蒡(ごぼう)と白菜(はくさい)とも遊んでました。
>八:熊が入ったら立派な熊鍋だな。
>熊:なに言ってやがる。・・・そんでもって、そいつらが、揃いも揃って物識(し)りでして。

>源:良い話じゃねえか。俺はな、そういう男と男の友情ってえ話に滅法(めっぽう)弱いんだ。
>八:ちょいと待ってくださいよ親方。男の友情も良いんですけど、男と女ってのもあるじゃあないですか。そっちの方はどうなんです?
>源:男と女の友情は有り得ねえ。
>八:そうじゃなくって、男と女の愛情のことはどうかって聞いてるんですよ。
>熊:そうそう、例えばですよ、今こっちに銚子を運んでくる女の人なんか、良いと思いません?
>八:綺麗好きだし、料理は巧(うま)い。器量(きりょう)が良くて、しっかりしてる。惚(ほ)れるね、普通の男だったら。
>熊:ああ、惚れる惚れる。おいらも惚れてる。
>八:周りの盆暗(ぼんくら)たちの顔を見てくださいよ。どいつもこいつも鼻の下を伸ばしやがってるでしょう?

襷(たすき)掛けをしたあやが、にこやかに寄って来た。

>あや:遅くなりました。いらっしゃいませ、熊五郎さん。こちらの方は同僚の方ですか?
>熊:へ、へい。あの、相変わらずお綺麗で。
>あや:まあ。嫌ですよ、からかっちゃ。
>八:お前、なに舞い上がっちまってるんだよ。・・・あのなあ、あやさん。この方は、おいらたちの・・・
>源:ど、同僚の源五郎と申しやす。
>あや:源五郎さんですか。あやと申します。八兵衛さん熊五郎さんと同じ長屋に、今朝引っ越して参りました。今日からここで使って貰っています。ご挨拶(あいさつ)代わりに、さ、どうぞ。
>源:ど、うも。

熊五郎は、大家の爺さんの見立ても満更(まんざら)じゃないんじゃないかと、にんまりした。これで、親方がしょっちゅう来るようになれば、それだけ美味いものが鱈腹(たらふく)食べられるのだ。
色気が駄目なら食い気、である。
熊五郎は、早くも、そう割り切っていた。

>熊:それはそうと、八、あやさんとちょっとは話せたのか?
>八:あん? 何のことだっけ?
>熊:やっぱりな。お前ぇって奴は。・・・昼行灯子供の使い糠に釘
>八:なんだそりゃ?
つづく)−−−≪HOME