13.【あ】  『後(あと)の祭(まつ)り』 (2000/02/07)
『後の祭り』
祭りが済んだ後の山車(だし)という意味から、適当な時機が過ぎてしまえば最早なんの役にも立たないもののこと。やってしまった後に悔いること。
類:●After death the doctor. (死後に医者)<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典
由来:京都八坂神社の祇園祭で、最も盛り上がる7月17日の山鉾巡行が「前の祭り」で、24日に行なわれていた山車を神社へ返す行事が「後の祭り」と呼ばれていた。
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半次を皮肉った熊五郎の言葉に一同が湧(わ)いたところで、湯飲みにほんの数滴残った酒を啜(すす)り切り、松吉が腰を上げた。

>松:なあ半次、明日もあるこったし、そろそろ帰ろうぜ。
>半:親爺、いま何時(なんどき)だ?
>亭主:亥の刻(22時頃)を過ぎた頃だ。
>半:ついつい長居しちまった。八、熊、お開きにしようぜ。
>八:そうか、そんな刻限か。親方、お口に合いましたか?
>源:ああ。満足だ。近いうちにまた来るか。
>八:喜んでお供しやす。
>五六:あっしらもお供しやす。
>熊:親方、こいつらに何をやらすんですか?
>源:そうさな、暫(しばら)くは掃き掃除に拭(ふ)き掃除ってところだな。
>五六:掃除だけですかい?
>源:そうよ。仕事場を綺麗にしとくってのが親父の代からの遣りようだからな。
>五六:鋸(のこ)とか鑿(のみ)とかはいつごろ持たせて貰えるんで?
>源:3年から5年経(た)った頃だろうな。
>五六:それまではずうっと掃除だけなんですかい?
>八:当ったり前ぇよ。
>熊:みいんなそうやってきてるんだ。

>五六:職人の世界って厳しいもんなんすね。
>源:人なんてものはな、自分の知らないことを簡単に見ちまう生き物なんだよ。例えばだ、お前ぇ、この店の亭主がどれだけ苦労して店を切り盛りしてるかなんて考えたこともねえだろう。
>五六:へえ、まったく。客に不味(まず)いもん出して法外(ほうがい)な御足(おあし)を取るくらいにしか考(かんげ)えたことありやせん。
>源:そんな意味でもだ、あれこれ経験してみるのも良かろうよ。
>五六:こいつぁあまた、深(ふけ)えお考えで。心に染みやした。
>八:お見逸(みそ)れしやした、だろ?
>五六:へい。・・・ただ、5年てえのはあんまりにも長過ぎやしませんか?
>八:過ぎちまえばあっという間さね。
>熊:騒(さわ)ぎを起こしておん出されなければな。

>三吉:兄貴ぃ、考え直した方がいいんじゃねえですか?
>四郎:一度堅気(かたぎ)になっちまうと、後戻りはできないってことらしいですよ。
>五六:喧(やかま)しい。俺は決めたんだ。嫌ならお前ぇたちともこれっきりだ。
>三・四:兄貴ぃ。

>源:安心しな。お前ぇたちももう好い年だからな、日頃の心掛け次第じゃあ悪いようにはしねえ。
>五六:ほんとですかい?
>八:そんなこと言っちまって良いんですかい?
>源:無下(むげ)にも出来ねぇだろうよ。
>熊:まあ、騒ぎを起こしたら、自業自得になるだけだからな。
>八:自業自得って?
>熊:親方に撲(なぐ)られたら、お城の堀まですっ飛んでくだろうよ。
>三・四:ひゃあ。桑原桑原・・・
>熊:今更無かったことにして呉れなんて言ったってもう遅えからな。
>三・四:ひえーっ。

話の切れ目を捉(つか)まえて、半次があやに呼び掛けた。

>半:あやさんはどうするんだい? 一緒に帰れねえのかい?
>あや:後片付けをしていきますんで。どうぞお先に帰ってくださいまし。
>半:そうかい。夜は物騒(ぶっそう)だから気を付けなよ。親爺、勘定置いてくぜ。明日は来ねえかも知んねえ。
>松:そんなこと言ってたって明日も来るんだけどね。親方、お先に失礼しやすよ。

半次と松吉はそそくさと帰ってしまった。

>八:なんでえ、つれねえ奴らだねえ。
>熊:親爺、片付けぐらい独(ひと)
りでできんだろ?
>亭主:そうだな。・・・あやさん、片付けは良いから熊公たちと帰んなさいな。
>あや:良いんですか?
>亭主:初日からこんな遅くまで働かしちまって済まなかったねえ。
>あや:それじゃあ、お言葉に甘えて。済みません
>八:夜道にゃ五六蔵みてえのがごろごろ居やがるからな。
>五六:そいつぁ言い過ぎってもんでしょう。
>八:悪(わり)い悪い。
>熊:あやさんにもしものことがあったら甚兵衛爺さんに顔向けできねえからな。
>源:なんだ、熊五郎? どうしてここで甚兵衛親方の名前が出てくるんだ?
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