102.【か】 『解語(かいご)の花(はな)』 (2001/11/05)
『解語の花』
「言葉を解する花」という意味で、美人のこと。楊貴妃のこと。
故事唐の玄宗皇帝が楊貴妃と太液の池に咲く蓮の花を鑑賞していたとき、玄宗が家来に、「蓮の花より解語の花の方が美しい」と言ったことから出た語。(開元天宝遺事
出典:
開元天宝遺事(かいげんてんぽういじ) 五代の王仁裕が編纂したもの。、4巻。仁裕は初め蜀に仕えて翰林学士となったが、蜀の滅亡後は長く長安に住み、民間に伝わる唐の玄宗のときの遺事記を辿って記した。史実と云うよりは小説に近いもの。
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内房翁が講(こう)じてきたという策は、檜山杉良を軟禁してしまうというものだった。
罰を加えるかどうかの裁定は領主に委(ゆだ)ねるしかないが、「恐らくもうお天道様は拝めませんね」と言って笑ってみせた。

>内:檜山と関わりのありそうな普請方の洗い出しをさせてるところです。明日にも数人が浮かび上がってくるでしょう。・・・段取りはこうです。先ず、普請方の1人の名を騙(かた)って檜山を召し出します。檜山はその場で引っ括っちゃいますから、尾張屋敷の方には留守居役が居なくなりますよね。そこで、代わりに、こちらの手の者を据えておいて、冨三郎を呼び出すんです。
>八:おいらがその檜山の代役をやるんですね。
>内:はは。それじゃあ直ぐにばれちゃうでしょう? ちゃんとこっちで用意しますよ。
>八:なあんだ、詰まらねえ
>内:冨三郎には、「なんとしても材木を買いたいという客が居る。代金には糸目を付けないらしい」と言って呼び出します。きっと勇んでやってくるでしょう。
>熊:ですが、檜山じゃない人が出てきたら勘付かれちゃうんじゃないですか?
>内:なあに、山吹色を見たら疑いなんぞ吹っ飛んじまいますよ。・・・そこでです。材木商の番頭の役をして呉れる人が必要になるんです。
>八:待ってました。そいつがおいらなんですね?

>熊:ちょ、ちょっと待ってください、ご隠居さん。八じゃあ、商家の番頭役だって無理ですよ。
>八:何を吐(ぬ)かしやがる。おいらの演技力を見縊(くび)って貰っちゃ困るぜ。
>内:まあまあ。演技力なんか関係ありませんよ。
>八:そうなんですか?
>内:冨三郎と小判の2つが揃えば、それで良いんです。
>熊:そんなんで良いんですか?
>八:でも、ご隠居。おいら、そんな大枚(たいまい)、用意できませんが。
>内:それには及びませんよ。どうせお屋敷内に在るでしょうから。
>熊:檜山が貯め込んでるのをその儘(まんま)使うんですね?
>内:勿論ですとも。どの道、金子(きんす)は元々鞍馬屋のものなんですからね。証拠品として、十分価値がありますよね。
>熊:はあ。お武家様の世の中って、そんなもんで咎人を1人仕立て上げられちまうんですか?
>内:お家の大事に関わることですからね。

>八:あの、ご隠居? おいらは、ただ居るだけなんでやすか?
>内:そうですよ。まったく危険はありませんよ。
>八:危険とかそういうことじゃねえんですよ。もの足りねえっていうか・・・。あの、冨三郎のお頭(つむ)をごつんと一発殴ることもできねえんですよね?
>内:はは。そのくらいなら良いんじゃないですか? なんなら目溢(めこぼ)しするよう予(あらかじ)め伝えておきますよ。
>八:そうこなくちゃ。
>熊:お前ねえ・・・

>八:ちょっと拍子抜けだけど、まあ良いかな。
>内:手伝って貰うお礼くらいは用意させますよ。なんてったって、尾張のお世継ぎは上様と同じ一橋家の方ですからね。家名を辱めないで済むのですから、上様だって懇(ねんご)ろに考えてくださるでしょう。
>棟:う、上様、ですかい?
>内:そうですとも。家斉(いえなり)様です。
>棟:勿体ねえ・・・
>八:棟梁。そう恐縮しねえでも大丈夫ですって。将軍様ってのは神様じゃなくって、人間だそうですから。
>熊:そんなの、知らなかったのはお前ぇだけだっての。

熊五郎は、後で、半次やお咲に話の流れを説明して、宥(なだ)めてやらなければならないなと考えていた。
妙に気合いが入ってしまっているのだ。「八兵衛だけ役付き」では、簡単には納得しないかもしれないが・・・。
そこへ、八兵衛がまた、妙ちきりんなことを言い出した。

>八:ねえご隠居。「英雄」って、それっぱかしのもんなんですか?
>棟:これ八兵衛、これ以上何かを強請(ねだ)ったりするもんじゃねえ。
>八:だって、普通「英雄」ってったら、世間の噂話に上ったり、町で擦れ違うとき「あれがあの八兵衛さんよ」とかって言われたりするもんでしょう?
>熊:お前ぇ、そんなこと望んでるのか?
>八:そうよ。当り前ぇじゃねえか。礼物なんか、物を貰ったってちっとも嬉しくねえからな。
>内:ほう。欲がないんですね、八つぁんは。
>八:物なんか、食っちまえば終(しま)いじゃねえか、なあ?
>内:物? 物じゃありませんよ。多分、50両(約400万円)くらいなら、出させられますよ。
>八:ご、50両ぉ? ひゃあ、ほんとに材木商が開けちゃいやすぜ。・・・でもね、おいら、町娘からちやほやされる方が、よっぽど有り難(がて)えんです。・・・そうさな、銭の方は、山を焼かれちまった人とか、鞍馬屋のお内儀さんとかに分けてやってくださいまし。
>内:ほう。これは見上げた心掛けですねえ。
>八:「団子より花」って言うじゃあありませんか。
>熊:言わねえよ。

案の定、「だるま」には、お咲と半次が来ていて、喧喧囂囂(けんけんごうごう)やらかしていた。

>咲:遅ーい。八つぁん熊さん、こんな刻限まで何をのんびりしてたのよ。一緒に考えてよ。
>八:あの件に付いちゃあ、もうお終い。
>半:なんだと? 尻尾を巻いて逃げ出そうってのか?
>八:そうじゃねえんだよ。・・・おい熊、説明してやれ。
>熊:おいらがか? まったくお前ぇってやつは。こういう役回りは必ずこっちに回ってくる。・・・まあ仕方ねえか。

熊五郎は、内房翁が決めた段取りに付いて、ゆっくり説明した。
咲も半次も、頭では了解できたようだが、除け者にされているようで、どうも釈然としない。

>咲:なんだかあたしたち、仲間外れにされちゃってるみたいで、嫌よね。
>熊:そんなことを言ったってよ、家名がどうだとか、上様がどうだとか言われたら、引っ込んでるしかねえじゃねえか。
>八:結果的に丸く納まるんなら良いんじゃねえの?
>咲:そりゃあ、八つぁんは役柄があるから良いわよね。
>八:無料奉仕だぞ。そんなに羨ましがられるようなことじゃねえだろ。
>熊:だけど、太助んとこの瓦版に「あっぱれ八兵衛」って書かせる約束を取り付けてきやがったんだぜ。
>咲:ほんと? ・・・何が無料奉仕よ。
>八:でもよ、50両呉れるってのを断ったんだからな。そのくらい只みてえなものだろ?
>半:ご、50両? お前ぇ、何でそっちを断っちまったんだ? 馬鹿じゃねえのか?
>八:「団子より花」ってやつよ。
>熊:だから、そうは言わねえっての。

>咲:はっ、さもしいったらありゃしない。どうせ「花」って言うのは、言葉を喋る花のことを言うんでしょ? 下心(したごころ)が見え見えじゃない。八つぁん、いつからそんな下品な人間に成り下がっちゃったのよ。
>八:なんだよ。そんなに糞っ垂れみたいに言うなよ。おいらだって偶(たま)にはちやほやされてえんだよ。
>咲:ちやほやでも痴話喧嘩でも、勝手にやってなさい。・・・でもね、これだけは教えといてあげる。躾(しつけ)の良い女は、見え透いた下心なんかに靡(なび)きなんかしないものなの。団子くらいで喜んでる人の方が、よっぽど可愛いと思うわ。
>八:そうなのか?
>熊:ご隠居に頼んで、瓦版のことは無しにして貰った方が良いんじゃねえか?
>半:「花なんかより団子の方が有り難えです」って、土下座でもしてくるんだな。
>熊:でもなあ、あんだけご立派なことを言ってきちまったから、今更「何卒(なにとぞ)礼物を」なんて言い出せたもんじゃねえよな。
>八:そっちも駄目なのか? ・・・そんじゃあ、おいら、なんのために出張るんだか分からねえじゃねえか。
>半:様(ざま)あ見やがれ
>咲:これで、少しは、腹の虫が治(おさ)まったわ。
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