118.【か】 『金(かね)の切れ目が縁(えん)の切れ目』 (2002/03/04)
『金の切れ目が縁の切れ目』
金銭面での利益がもう見込めなくなった時が人間としての付き合いも終わる時だということ。金銭で成り立っている関係は、金銭がなくなれば終わるということ。
類:●利を以って合う者は窮禍患害に迫って相棄つ●When poverty comes in at the door, love flies out at the window.<「英⇔日」対照・名言ことわざ辞典
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新任の総元締め・相馬屋の親っさんは、着任初っ端(しょっぱな)の寄り合いに源五郎たちがけちを付けたと、お冠(かんむり)だった。
経緯(いきさつ)を聞いて「そんなことがあったのか」と、源蔵とあやは目を丸くした。お雅はげたげたと笑い出した。

>相:笑い事じゃないぞ、お雅。年寄りたちは保守的な者が多い。疑いを招くような行動は良いものではない。分かっておるのか? 源五郎。
>源:へい。申し訳ありやせん。ですが・・・
>相:言わんでも良い。・・・そりゃあ、お前らとは長い付き合いで、源五郎が父親に負けず劣らぬ堅物(かたぶつ)だということは、重々承知している。年寄りたちが疑(うたぐ)っているような疾(やま)しい考えがあろう筈ないことも分かっている。しかしだ。しかし、こんなことになってしまった以上、身の潔白を証明する確たる証(あかし)を見せて貰わんと、年寄りどもが納得せんのだ。分かるな?
>源:へ、へい。しかし・・・
>相:まあ待て。今ここでわしが聞いても、なんにもならん。明明後日(しあさって)、町の元締め連の前で申し述べて貰うことにしよう。良いな。
>源:4日の日ですか?
>棟:相馬屋さん、それじゃあ、あんまりにも・・・
>相:御託(ごたく)なんか並べてないで、さっさと行動を起こした方が良いぞ。・・・源蔵、下手をしたら、お前さんも寄り合いに出られないようになるかもしれないんだからね。
>棟:待っとくんなさいよ、親っさん。
>相:総元締めになって初めて関わる進退が、源蔵の除籍なんてことにならなきゃいいんだがね。それじゃあ、せいぜい頑張っとくれよ。あーあ、正月早々・・・

総元締めは、言いたいことだけを一方的に言って帰ってしまった。
というよりも、源五郎や源蔵の声が良く聞こえなかったから、というのが事実だったようだけれども。

>八:まったく、勝手な爺ぃですね。
>源:お前ぇたち、聞いてやがったのか?
>熊:済みません、立ち聞きなんて端たないことしやして。なんてったって、あの剣幕でしたから。
>八:ですが、親方、安心しててくださいまし。おいらたちがちょちょいのちょいで片付けちまいやすから。
>源:そう簡単に運ぶかよ。
>八:大丈夫ですって。この八兵衛に任せとけば大丈夫ですって。ま、大船に乗った積もりでいてください。

>棟:なあ源五郎、どうでも良いんだが、最初からちゃんと話して呉れねえか? 親っさんの話しっ振りを聞いただけじゃ、さっぱり経緯が掴めねえ。豆撒きの鬼をやったくらいで、俺はどうして寄り合いに出られねえ身になっちまうんだ?
>雅:あたしも聞きたいね。どんな風に面白いことをして、どんな訳で相馬屋さんが泡食ってるのかをね。
>棟:そんな悠長なこと言ってるんじゃねえ。
>雅:馬鹿馬鹿しい、高々(たかだか)鬼の真似をしたくらいで。元々鬼瓦なんだからって言ってやればそれで済んじまうようなことだろ?
>棟:男社会はそんな一筋縄で行くようなもんじゃねえのよ。
>雅:はあそういうもんで御座いますか? それではどうぞ勝手になさってください。女どもはせいぜい、笑い転げながら見守ってましょう。ねえ、静(しずか)。

幼い静にも、お雅の言葉が分かったのだろうか、あやの膝の上できゃっきゃと笑って見せた。
あやは、心強いお雅の態度に引っ張られるようにして、気分が軽くなってきていた。八兵衛などより、お雅の方がよっぽど頼りになりそうに思えた。

>棟:兎も角、話を聞こうじゃねえか。・・・と、その前に、3合ばかし飲ませて貰おうか。とても素面(しらふ)じゃ聞いてられそうもねえからな。
>八:それじゃあ、四郎、お前が説明しろ。
>四:あの、済みません。ちょいと寝惚けてて、所々抜けちまってますんで、今日のところは三吉にやらしといてください。
>八:なんだよ、起きてるのに聞こえてねえなんて、
耳が遠い相馬屋さんより質(たち)が悪いじゃねえか。

三吉の説明はしどろもどろだったが、どうにか筋の通った説明ができた。

>棟:なるほど。お前ぇたちが銭を取りに戻らなかったのは、坊さんに巧く丸め込まれたからだってことで大目に見よう。だがな、揃いも揃ってうちの半纏を着たまんま大勢の人の前に出たのは軽率だったな。
>源:済まねえ。
>棟:するってえとだ、問題になってるのは鬼をやったことじゃなくって、本来払うべき厄落としの代金を只にさせたことと、普請方の役人との贈収賄(ぞうしゅうわい)に関わりを持ったことだな。
>源:関わりなんか持つもんか。
>棟:分かってるよ。俺は分かってる。だが、元締め衆はそうは見て呉れなかった。そういうことだろ?
>源:そんなこと言ったって、俺はその坊さんと役人が怪しい関係だなんて知らなかったんだからよ。
>棟:知ってたか知らなかったかなんて、もう今となっちゃ関係ねえんだよ。今は知っちまったんだからな。
>源:まったく。だから俺は、お裁きとか政(まつりごと)を話し合いの席で解決しようってやつらが嫌いなんだ。証、証、証か。もっと俺のことを信用しろってんだ。

>雅:馬鹿だねこの子は。
>源:なんだよ、母ちゃん。
>雅:世の中、悪事を働くやつなんてのは、大方が「出来心」なのさ。尻に敷かれっ放しだった大人しいご亭主とか、これまで一度だって逆らったことのない真面目な番頭さんとか、代々仕え続けていた筈の一徹なご家老だったり。そうだろ?
>源:そりゃあ、屁理屈ってもんだ。
>雅:いいや違うね。それを「屁理屈」に仕立てといた方が楽なお奉行様か、将軍様か、然もなきゃお偉い学者先生が言い触らしてる「理屈」さ。
>八:・・・あの、おいらたちにはそんな難しい話をされてもどうもなんないんですけど。
>雅:そうだね。今度八つぁんのとこに斉(なり)ちゃん様が訪ねてきたら聞いとくと良い。
>熊:じょ、冗談じゃありませんや。そんなのあの方に言ったって埒(らち)の明かないことじゃありやせんか。
>雅:そうだね。あたしもちょっとばかし言い過ぎたかね。韓非子(かんぴし)さんとか孔子(こうし)さんとかが生きてたら是非とも聞いてみたかったけどねえ。
>八:誰ですか、それ? 干瓢(かんぴょう)と香香(こうこ)を発明したお人ですか?

話は、それじゃあどういう方向へ持っていけば良いのかということになった。
大人しく聞いていた与太郎が「撫道が次の手に進めないようにできれば良いんですけど」と呟(つぶや)いた。

>咲:それよ。
>八:なにがそれなんだ? 手と足を縛っちまえば良いのか?
>咲:そうじゃなくて、小豆なんとかって人が弟の家島って人との仲を取り持たなければ良いんでしょう? だったら、その小豆の行動を見張ってて、悪さをしようとしたら捕まえて閉じ込めちゃえば良いのよ。
>熊:待てよ。そんなのんびりしてたら、4日に間に合わねえんじゃねえのか?
>咲:・・・それもそうね。それじゃあ駄目ね。
>太:いや、そうでもないかもしれませんよ。
>八:どういうことだ?
>太:撫道って人は、まだ家島様に会ったことがないんでしょう? だったら、別の人が会ったって分からないんじゃないですか? なんなら、おいらが一緒に行ってご馳走を鱈腹(たらふく)・・・
>熊:太助、お前ぇの言いてえことは分かる。だがなあ、いくらなんでも・・・
>八:まったくおいら以上に食い意地が張ってやがる。
>熊:撫道とは昼間に会ったばかりだろ? お前ぇの顔は割れちまってる。ばればれじゃねえか。
>太:それはそうですが・・・。じゃあ、こういうのはどうです? おいらは瓦版売りですから、どなたとどういう付き合いをしていても可笑しくありません。寺社奉行所の与力のところにしょっちゅう聞き込みに行ってて、下っ引きみたいにして働いてるって。
>八:お前ねえ、そうまでしてご馳走に有り付きてえのか?
>太:当たり前ですよ。
>八:あんなに雑煮を食って苦しくねえのか?
>太:正直、今は苦しいです。でも、それとこれとは話が違いますから。

源蔵たちには、なんの話か良く分からなかったが、息子たちがしようとしていることの方向性が、なんとなく分かってきたようで、兎や角(とやかく)言わずに任せてみようという気になっていた。

>八:さてと。それじゃあ、実際には、どういう風にして坊さんを懲らしめれば良い?
>五六:こんなのはどうでしょう? 銭に拘(こだわ)るやつには、銭のことで懲らしめるのが一番利く。
>熊:ほほう。中々洒落たことを言うじゃねえか。面白そうだな。
>五六:でしょう? 太助さんが食って食って食い尽くしちまえば、撫道の野郎、手も足も出なくなるって寸法でやすよ。
>八:なるほどな。銭が底を突けば悪さをしようにも味方を雇っておけねえって訳か。そもそも銭で作った間柄ほど壊れ易いもんはねえからな。
>熊:巧く行くかな?
>五六:さあ? こっから先は熊兄いたちで考えてくださいよ。あっしにはここまでが精一杯でやすよ。
>八:おいらに任しときな。
>熊:止めとけ。お前ぇに任せとくと碌なことになりゃしねえ。
>八:誰が、おいらが筋書きを書くなんて言った?
>熊:そういう意味で言ったんじゃねえのか?
>八:違う違う。こういう事は頭の良いお夏ちゃんに頼むのが一番だって言おうとしたんじゃねえか。そんでもってよ、おいらたちは最後の最後に坊さんのお頭(つむ)をぽかりと・・・
>熊:またそれかよ。
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