314.【つ】『鶴(つる)は千年(せんねん)亀(かめ)は万年(まんねん)』 (2005.12.12)
『鶴は千年亀は万年』
長寿でめでたいこと。寿命が長いこと。
類:●松は千年竹は万年
伝説:淮南子−説林訓」「鶴寿千歳、以極其游、蜉蝣朝生暮死、尽其楽」 鶴と亀は、千年、万年の寿命を保つといわれる。
★野生の鶴の寿命は30年くらい、亀の寿命は大型のものでも30〜50年くらいと推定されている。
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「さてと」、と言って太助が帰ろうとしたので、「どこへ行くの?」と聞くと、内房の旅籠(はたご)へだと言う。
そう言えば、近頃元気がないのだと、太助が言っていたなと思い当たった。
「お迎えかな」などと言うものだから、お咲もちょっと気に掛かった。

>咲:あたしも付いてって良い?
>太:うん、良いと思うよ。お咲ちゃんはあんまりたくさん食べないから、そのくらいはあると思う。
>咲:あたしは、お昼を食べに行く訳じゃないのよ。
>太:ああそうか。そんなら良かった。その方がたくさん食べられるからね。うふ。
>咲:太助どん、あんた、田楽(でんがく)を4本も食べたじゃない。良く食べられるわね。
>太:芋(いも)と蒟蒻(こんにゃく)2本ずつじゃ腹一杯にはならないんだな。
>咲:普通は一杯になるもんなの。

>太:・・・あのさ、今日のことお爺ちゃんに話したら、またやる気を出して呉れるかな?
>咲:どうかしら? いつもなら、お奉行様のことへ早速(さっそく)出掛けていくとこでしょうけど、具合いが悪いんだったら無理よね。
>太:具合いが悪いってんじゃないみたいだけどな。
>咲:太助どんは医者じゃないんだから、そこまでは分からないでしょう?
>太:まあ、それはそうだけど・・・。でもさ、御飯なんて、おいらと変わらないくらいの勢いで食べるぞ。お代わりだってするし。
>咲:ほんと? それはどう見ても病(やまい)じゃないわね。
>太:もしかしたら、「お医者様でも草津の湯でも」って奴かな?
>咲:真逆(まさか)、いくつだと思ってるの?
>太:知らないけど、70の半(なか)ばくらいじゃないかな? でも、年なんか関わりないんでしょ?
>咲:そうかしら? 家(うち)の父上なんか・・・
>六:皆まで言うな。・・・もう良いから早く出掛けなさい。儂(わし)は将棋盤を片付けてから昼寝でもする。
>咲:ふて寝(ね)?
>六:どうでも良かろう。

行楽(こうらく)の季節も終わってしまって、旅籠は書き入れ時という訳ではないらしい。
いつもだったら睨(にら)んでくる番頭も、今日は特に何も言ってこない。

>咲:ご隠居様、今日(こんにち)は。
>内:おお。これはこれは熊さんのとこのご新造(しんぞう)さんではありませんか。
>咲:そんな呼び方されちゃうと、照れるわね。・・・お変わりは?
>内:この通りぴんぴんしておりますよ。さ、こちらへお掛けなさい。お茶菓子でもお出ししましょう。
>咲:ご免なさいね、急に押し掛けちゃって。
>内:いえいえ、あたしの方はいつでも歓迎(かんげい)ですよ。特に、若い娘さんだと、こちらまで若返ります。
>咲:・・・あの、太助どんから聞いたんですけど、瓦版(かわらばん)のこと、もう止(や)めちゃうってことだそうで。
>内:止める訳ではありませんよ。そんなことをしたら、太助どんが飯の食い上げになってしまいますからね。
>咲:だって、「やる気がなくなっちゃったみたい」だって・・・
>内:それはですね、あたしではなくて、手伝わせている者に任(まか)せようかということです。
>咲:ご隠居様は?
>内:あたしは、それこそ文字通り隠居ですよ。悠々自適(ゆうゆうじてき)で暮らしていきます。ここも使っていただいて構いませんし、太助どんに御飯も出しましょう。
>太:本当に? やったあ。
>咲:それじゃあ、手を引いちゃうっていう訳じゃないのね?
>内:そうですとも。
>咲:ああ良かった。・・・それじゃ、話をしてっちゃおうかしら。
>内:何か面白(おもしろ)そうなことでも持ち上がりましたか?

>咲:今回は太助どんが大活躍(だいかつやく)だったんだから。
>内:ほう。それはまた、面白そうですな。お昼でも食べながら話しませんか?
>咲:でも、なんだか集(たか)りに来たみたいで・・・
>内:話し相手になっていただけるのでしたら、旅籠の飯など物の数ではありませんよ。
>太:やったぁ。明日の晩までご馳走(ちそう)はお預(あず)けかと思ってたんだな。うふ、今日は食うぞー。
>内:太助どんには、変わり映(ば)えのしないお膳(ぜん)ですよ。
>太:良いんだな。米の飯があればそれが一番のご馳走なんだな。
>内:そうでしたね。それでは。・・・おーい、誰かいるか?

内房老人は、丁稚(でっち)の小僧に膳を3つと米櫃(こめびつ)を支度(したく)するように言い付けた。
目の前に膳か整(ととの)い、丁稚が去っていくと、太助は、猛然とした勢いで食べ始めた。

>内:これこれ太助どん。御飯は逃げやしませんよ。
>太:もごもご・・・
>内:そうですか。
>咲:なんて言ったの?
>内:一先(ひとま)ず腹の虫大人しくさせないとどうしようもないんだそうです。
>咲:良く分かるわね。
>内:長い付き合いですからね。・・・さて、お話を伺(うかが)いましょうか?

お咲は、2日前の朝、坂田太市が長屋を訪れたところから話し始めた。
内房老人はうんうんと頷(うなず)きながらゆっくり聞いていた。

>内:ほう。徳島藩だから銀ですか。それはそれは・・・
>咲:「銀座」が蛎殻(かきがら)町に移ってたのって知ってました?
>内:はい。知っていますよ。ですが、それとこれとが繋(つな)がっているとは思いもしませんでした。
>咲:え? 「それとこれと」って、まるで初めから分かっていたような言い方ね?
>内:おや、そう聞こえてしまいましたか? ・・・ははは。人を騙(だま)すのは難しいものですね。
>咲:騙す?
>内:気を悪くしないでください。騙そうとしていたのではないんですから。黙(だま)っていただけです。
>咲:どういうこと?
>内:坂田をあの長屋に行かせたのは、あたしと然(さ)るお方なのです。
>咲:然るお方って、もしかして斉(なり)ちゃん?
>内:はい。

>太:あ・・・
>咲:何よ。変なとこで口を挿(はさ)まないでよ。黙って食べてて。
>太:この前、お爺ちゃんが砂糖の話を教えて呉れたのって、分かってたからなのかな?
>内:ちょっとは知っていました。どこかの藩が砂糖の横流しをしているらしいというのは、調べが付いていたんです。
>咲:お役人では調べられないところもあるってことよね?
>内:そういうことです。
>太:なーんだぁ。操(あやつ)られちゃっていたんだな。参(まい)ったなあ。
>咲:それじゃあ、瓦版を人に任せて隠居するっていうのも方便(ほうべん)?
>内:いえいえ。それは本当のことです。まあ、偶(たま)に口を出しますがね。
>咲:そう来なくっちゃね。・・・今度の一件が片付いたら、瓦版にして呉れるの?
>内:そうですね。ちょっと考えさせてください。
>咲:どうして考えるの?
>内:今回のことは、坂田の手柄(てがら)にしておこうかと思うのです。それと、大工のご新造さんのね。
>咲:太助どんは?
>内:まあ、米3俵くらいで我慢(がまん)して貰います。
>太:うっひょう。米3俵? そいつは嬉しいんだな。
>咲:それで良いの?
>太:「良いの」も何も、これ以上の褒美(ほうび)はないってくらい良い思い付きなんだな。うふっ。
>内:そういうことですから、細かい話は八つぁんたちには内緒と言うことにしておいてください。
>咲:八つぁんだけ?
>内:熊さんは、事情を話せば分かってくださるでしょう? お咲さんの旦那様であるし、内緒にしておくのは却(かえ)って良くありません。夫婦(めおと)の仲で隠し事は禁物(きんもつ)ですからね。
>咲:まあ。細かいご配慮(はいりょ)ですこと。

話にけりが付いたところで、太助が「お代わり」と、お咲の方へ茶碗を差し出した。
ついつい茶碗を受け取ってしまったお咲は、仕方なしに御飯をよそって渡してやった。
まったく、憎めない男である。
つづく)−−−≪HOME