142.【き】 『木(き)に竹(たけ)を接(つ)ぐ』 (2002/08/19)
『木に竹を接ぐ』
木に竹を接ぐように性質の違ったものを継(つな)ぎ合わせるということで、前後の辻褄(つじつま)が合わないこと。また、筋が通らないこと。釣り合いが取れないこと。
類:●辻褄が合わない矛盾
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四郎の祝言(しゅうげん)の当日だというのに、八兵衛と五六蔵は酷(ひど)い二日酔いに苦しんでいた。
三吉の飲みっ振りに煽(あお)られたせいである。
当の三吉は自称「(ざる)」ということもあって、一人、何事もなかったように、さっぱりしたものである。

>源:八、ちょいと俺に付き合って貰っても良いか?
>八:厄介(やっかい)事なら熊に代わって貰いてえんですが。
>源:お前ぇじゃねえといけねえ用なんだ。内房のご隠居のとこまでだ。
>八:ご隠居さんのとこですかい? 結構歩きますぜ。
>源:途中、市毛道場にも寄ってくぞ。
>八:勘弁してくださいよ、親方。そいつぁあ一種の拷問(ごうもん)ですぜ。
>源:仕方がねえだろ。ご隠居様に頼み事をするときゃ、お前ぇがいた方がとんとん運ぶんだからよ。
>八:そうですかい。親方もやっとおいらの重要性に気が付いて呉れやしたか。
>熊:ご隠居以外のことだと、八がいることで面倒じゃないことまで面倒になるけどな。
>八:なにをーっ? ・・・あいたたたたた。
>熊:頭に血が上ると、二日酔いに響くぞ。
>八:なんだこの野郎。手前ぇ一人だけ酒の量を測っていやがって。
>熊:意地汚(きたね)えお前ぇが悪いのよ。
>八:てやんでえ、好きで意地汚く生まれてきた訳じゃねえや。・・・あいたたた。

>源:・・・四郎、お前ぇも道場まで付き合え。
>四:道場までって、その後は良いんですか?
>源:お前ぇは、嫁とのご対面だ。あやのところへ連れ帰ってこい。
>四:はあ。・・・ですが、祝言前は嫁と一緒には居ないのが決まりなんじゃなかったですか?
>源:10年も会ってねえんだろ? 決まりなんかもうどうでも良いさ。なあ?
>四:それでしたら、お言葉に甘えさせていただきます。

八兵衛は、項垂(うなだ)れて源五郎と四郎に付いていった。

>熊:さてと、こっちの問題はもう一人の二日酔いをどうするかってことだな。な、五六蔵。
>五六:へえ。ちょいとばかし羽目(はめ)を外し過ぎやした。
>熊:今日は2人抜けた分、ばりばりやって貰わねえとな。頼むぜ。
>五六:あんまり期待されると困っちまいやすが・・・
>熊:精々(せいぜい)今のうちにたんまり水を飲んどくんだな。身も細るくらい扱(しご)いてやるからよ。
>五六:ひゃあ。お手柔らかにお願いしやすぜ。

四郎は市毛道場で、吾作からおよねを預かり、あやのところへ帰された。
二郎と吾作は、源五郎たちに付いて、内房正道の旅籠(はたご)へと向かった。
気配を感じ取ったのか、竜之介が出てきて、「我も行くぞ」といって供(とも)に加わった。

>八:親方あ、おいらどうもあの若先生が苦手なんですよね。
>源:然(さ)もありなんだな。決して悪いお人じゃねえんだがな・・・
>竜:やっ、源五郎親方の一番弟子の八兵衛殿ではないか。久方振りであったのお。
>八:あいたたた。・・・若先生、こちとら二日酔いなんでやす。もうちいと小せえ声で頼みませよ。
>竜:何を言う。声というものは腹の底から出して初めて魂が宿るのだ。魂のない言葉は言霊(ことだま)では有り得ないではないか。
>八:言霊は立会いのときかなんかのために取っといてください。おいらを威圧したってなんにも出やしませんぜ。
>竜:99勝しても1敗すればそれ即(すなわ)ち、死を意味するのだ。気を抜いたときが即ち一巻の終わりであると心得よ。
>八:戦国の世の中じゃねえんですから、何もそこまでしなくったって・・・
>竜:太平の世の中も、もう200年になるのだぞ。いつ戦(いくさ)になっても不思議ではないわ。
>八:止(よ)してくださいよ、縁起でもねえ。おいらは面白可笑しく命を全(まっと)うしてえんですから。
>竜:大工風情には分からぬ話であるな。ご意見番のご老人であれば、少しは話も分かろう
>八:いくら偉いってったって、
とどのつまりは旅籠の隠居でやすよ。若先生には付いていけねえんじゃねえですか?
>竜:そうであるのか? 詰まらんではないか。そんなご老人では、吾作どもの面倒など見られぬのではないか?
>八:そのくらいなんてことねえですよ。寝床と飯の面倒くらいなら何ぼでも見られますぜ。旅籠なんでやすから。

>竜:なんだ八兵衛殿。こやつらの話を何も聞いておらぬのか?
>八:へ? 何もって、江戸見物かなんかに来ただけでやしょう?
>竜:やっぱりか。全く頓珍漢ではないか。
>八:違うんですかい?
>竜:良いかな。耳の穴をかっ穿(ぽじ)って良く聞くのだぞ。この吾作と二郎はな、これから悪代官を成敗(せいばい)しに行くのだ。
>八:これからって、ご隠居様を成敗しちゃうんでやすか?
>竜:そうじゃない。下野(しもつけ)の山口なんとかという代官だ。
>八:へえ。そいつは凄(すげ)えや。鎌とか鍬(くわ)でやっつけるんでやすね? 格好良い。
>竜:一揆(いっき)ではない。・・・どちらかといえば、鬼退治である。
>八:へ? 金太郎ですかい?
>竜:桃太郎であろう。

>八:大した違いはねえじゃねえですか。・・・そう言やあ、ついこの間、お供2人を連れて世直しの旅に行くんだって張り切ってたお人が居やしたねえ。
>竜:なに? そのような面白そうなことをした者が居るのか?
>八:居やすとも。こちらのお人は物凄いお大尽(だいじん)様で、銭を湯水のように使えるんですぜ。
>竜:ほう、それは凄い。・・・どうであろう、今度の世直し旅にも付き合って呉れぬかの?
>八:面白そうでやすね。きっとおいらが頼めばもう、二つ返事でやすよ。
>竜:そうか、農民2人だけではむさ苦しかろうと思っておった。序(つい)でにくの一か何かも付けられぬか?
>八:なんですかい、そりゃ?
>源:あの、銚子様? 本気で下野まで行くお積もりなんで?
>竜:当たり前である。悪人を退治するのは英雄の役目と決まっておる。そしてこの銚子竜之介こそが英雄である。仮令(たとえ)10人の悪代官が束になって掛かってきても、ばったばったと薙(な)ぎ倒して呉れるわ。はーっはっは。
>八:親方、なんだか初め言ってたことと丸っきり感じが違うんでやすがね。
>源:案外お前ぇと馬が合うかもな。
>八:そりゃあねえですよ。

>源:銚子様。悪人を懲らしめるのにゃ、呉服屋の隠居は必要ねえと思うんでやすがね。況(ま)してくの一など・・・。
>竜:八兵衛殿に調子を合わせていただけである。木っ端(こっぱ)代官といえども手は抜かん。
>源:まあどうでも良いですが、内房のご隠居が許さねえって仰ったら、引き下がってくださいやしね。
>竜:なんでだ? 善行をするのになんでお許しが出ないことなどあるものか。
>源:善行はお上に任せとけば良いって仰る可能性だって十分あるでしょう?
>竜:そちは、この銚子に手柄を上げさせたくないのか? このご時世、どんなことが切っ掛けで世に出るか分からんのだぞ。もしかすると、大名の専属指南役にだってなれるやも知れぬ。
>源:銚子様? もしかして、二郎さんたちを救おうってのは、端(はな)っから下心があってのことなんでやすか?
>竜:そのようなものなどないわ。この銚子はあの町道場で十分満足しておる。・・・それは、立身出世するに越したことはないが、今度のことは、単純に人助けから思い立ったことである。
>源:そうでやすか。信じやしょう。・・・尤(もっと)も、下心なんかが在ろうもんなら内房のご隠居様が見破っちまうでしょうが。
>竜:心が読めるのか?
>源:真逆(まさか)。そんなこと誰だってできやしません。ですが、ご隠居様は、本心が表に出てくるように仕向けちまうんですよ。
>竜:なんと。どうやるのだ? その極意(ごくい)は?
>源:極意なんかじゃありませんよ。当たってるかどうか分かりやせんが、こういうことです。自分の方から
手の内を全部見せちまう。
>竜:それでは足を掬(すく)ってくださいと言うようなものではないか。
>源:そうかも知れませんね、ははは。
>竜:笑い事ではない。それは、勝ち方ではなく負け方の極意であろう。
>源:真逆そんな。ご隠居さんは一度だって負けたことがねえお人でやすからね。
>竜:うーむ、お主が言っていることは丸っきり変梃(へんてこ)で理解できぬ。
>源:頭で考えて分かるようなことじゃあねえかも知れやせんね。

>八:おいらには分かるような気がしやすけどね。
>竜:なんと。もしかして八兵衛殿は剣の道の天才か?
>八:ご冗談でしょう。・・・「負けるが勝ち」ってことなんでやしょう?
>竜:ん? ちょっと違うと思うがな・・・。でも、ま、そういうことなのかも知れぬな。
>源:駄目だこりゃ。

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