93.【お】 『鬼も十八(じゅうはち)番茶(ばんちゃ)も出花(でばな)』 (2001/09/03)
『鬼も十八番茶も出花』[=出端]
1.醜(みにく)い鬼も年頃になればそれなりに美しく見え、粗末な番茶も湯を注いで出したばかりは味わいが良い、という意味から、醜い者も、年頃にはそれ相応に美しく見えるということ。 類:●薊の花も一盛り
2.略して「鬼も十八」とも言い、年頃になれば人の世の情けを解するようになるものだの意味でも使う。
★現在は女性に言うが、古くは男女どちらにも言った。<国語大辞典(小学館)>
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お夏から、鹿之助の嫁を探して欲しいと頼まれてしまった熊五郎と八兵衛だが、銭と女にはからっきしの2人である。
ほとほと困ってしまった。
源五郎は輪を掛け堅物(かたぶつ)だし、ここは、あやに頼るしかない。早速翌朝伺いを立ててみることにした。

>熊:お前が安易に引き受けちまうからこんなことになるんだぞ。
>八:なあに、姐さんに任せとけばもう大丈夫だよ、な。
>熊:でもよ、親方も姐さんも鹿之助には一遍も会ったことがねえんだぞ。そんな相手の嫁なんか見付けられる道理がねえだろう。
>八:それじゃあよ、非番はいつか聞いて来て、明日か明後日か明々後日(しあさって)かに、連れてきちまえば良いだろう。
>熊:おいらの役目なのか?
>八:当り前だよ。幼馴染なんだろ?
>熊:そうは言うがよ、正直言って、姐さんも困りなさるだろう。なにしろ「もやし」って呼ばれてたくらいで、ほんとに貧弱な男だぞ。はいそうですかって喜んで来てくれるような人なんかそうそう居るもんじゃねえよ。
>八:何を言ってやがるんだよ。お夏ちゃんが言ってたろ? 善い女は見て呉れじゃなくて、才能に惚れるんだって。
>熊:鹿之助にゃ、威張れるような才能なんかあるもんか。
>八:そんなこたあねえだろう。無くて七癖って言うじゃねえかよ。
>熊:それを言うんならな、「愚者も千慮に一得あり」だろ。
>八:なんだそりゃ?

余程ご機嫌だったのか、源五郎は、「駄目で元々ってんなら良いぜ」と、いともあっさり引き受けて呉れた。

>熊:親方、そんな安請け合いしちまっても良いんですか? 八兵衛並みですぜ。
>八:何がおいら並みなんだ?
>源:菜々ちゃんのときみてえに巧くいくとばかりは限らねえがな。でも、ま、人様の為になるんだったら少しくらい
骨を折ったって罰は当たるめえ。
>熊:ですが、鹿之助があんな風ですからねえ。難しいと思いますよ。
>源:なあに、見るのと一緒に暮らすのとじゃ訳が違うからな。控え目な男が良いって娘さんだって居るだろうよ。
>熊:「控え目」なんて、そんな良い代物じゃねえんですぜ。「弱っちい」んですぜ。「貧弱」なんですぜ。
>源:何もそこまで貶(けな)すこともねえだろう。・・・それにな、あのお夏ちゃんには、なんだか借りがあるみてえな気になっちまってるんだ。達(たっ)ての頼みだってんだから、聞かねえ訳にもいくめえよ。
>八:お夏ちゃんに何かして貰ってたんですかい?
>源:別にそういう訳じゃねえさ。ただな、うちのやつの話し相手になって呉れてるってだけで、十分有難てえと思ってるんだ。
>八:流石(さすが)親方、良い心掛けでやすねえ。おいらも肖(あやか)りてえもんでやす。
>熊:お前ぇは迷惑の掛け通しだから、お目玉ならたんまり戴けるだろうよ。
>八:熊は良いよな。お咲坊絡(がら)みでなんぼでもお零れに与(あず)かれるんだからな。
>熊:な、なんてこと言いやがるんだ。

実のところ、源五郎にはちょっとした
目星もあったのである。
とは言っても、その娘が鹿之助と合うかどうかは分からない。なにしろ、その娘にも会ったことがなかったのだ。
過日、出産祝いということで訪れた甚兵衛が、とんだ置き土産(みやげ)を置いていったのである。

>甚:なあ源五郎。お前さんが松吉の縁談を纏(まと)めてから、妙な頼み事をされて適(かな)わないんだよ。
>源:と、申しやすと?
>甚:「源蔵のところの鬼瓦は邪気を祓(はら)うだけじゃなく、福も招くらしい」ってねえ。
>源:あっしのことですかい?
>甚:「あんな顔をした大黒様が居る訳ないじゃないか」って言ったんだけどね、「この際、不動明王だって手力男命(たぢからおのみこと)だって構わないから」なんて、滅茶苦茶なことを言い出してねえ。
>源:混ぜこぜじゃねえか。・・・まあ、そんなことは良いとして、いったいどうしろって言うんでやすか?
>甚:孫やら遠縁の娘やらの縁談を纏めて貰いたいんだそうだ。
>源:ま、待っとくれよ。そんなのあっしに巧くできる筈がねえじゃありませんか。
>甚:あたしもね、「自分の連れ合いを決めるときだって、女の方から来なけりゃなんにもできなかった男なんだよ」って、説得はしたんだがねえ。
>源:どういう説得のしようですか。
>甚:「何もしないであんな立派なお内儀に恵まれるなんて、やっぱり福が付いてるとしか思えない」と、こう来たもんだ。
>源:真逆(まさか)、それで、引き受けて来なすったってことじゃねえですよね。
>甚:それがねえ、それぞれに、名誉も力もあるお人ばかりなもんでねえ。
>源:なんてこったい。
>甚:全部が全部って訳じゃ、勿論、ありゃあしないよ。
>源:当り前じゃねえですか。・・・それで、何人なんで?
>甚:三人。
>源:勘弁しとくんなさいよ。
>甚:そりゃそうだよねえ。・・・だからさ、籤引きで、その順番を決めて貰ったのさ。ということで、当面は一人で良いんだよ。
>源:却って難しくしてきちまいやがった。なんだか頭痛がしてきたぜ。

そんな経緯(いきさつ)である。
元より、こっちとあっちをちょちょいのちょいなどという具合に、都合(つごう)良く行くとは思っていない。
しかし、畏(かしこ)まらないように気を配ってやって、先ず話すことから始めれば、歩み寄りの姿勢だって生まれてこないとも限らない。
色恋というものに対して抱いている「理想」とか「間遠さ」とかを、もっと身近なものにしてあげれば、今回が駄目でも、後のためになる筈だと、源五郎は思っている。現に、源五郎自身がそうだったのだから。

>八:それで、親方。鹿の字とその娘さんは直ぐにでも見合わせられるんですか?
>源:そう簡単には行かねえよ。こっちにはこっちの下準備ってもんもあるんだからな。
>熊:それで? いったいどんな娘さんなんですか?
>源:それがな・・・
>熊:お武家の方ですかい?
>源:それがなあ・・・
>八:真逆、後家で子連れなんてんじゃねえでしょうね。
>源:・・・正直に言っちまうがな、実は、俺も知らねえんだ。
>熊:はい?
>八:親方が知ってなさる人じゃねえんですか?
>源:甚兵衛親方が持ってきた話なんだ。
>八:大家の爺い? あー、こりゃあ駄目だわ。・・・おい熊、他を当たった方が良いかも知れねえな。
>熊:あの爺さんが絡むと纏まるもんが纏まらなくなるから不思議だよな。
>源:まあ、そう決め付けるな。暫く俺に預けてみろ。できるとこまでやってみるからよ。

鹿之助のことを良く知っているからこそ、熊五郎には巧く行かないように思えて仕方がない。
普通、適齢期ともなれば、異性のことを気に掛けたり、良く見られたくて服装や振る舞いに気を使うようになる筈なのに、鹿之助にはそんな様子もなかったし、今現在も全くないのだ。
更に悪いことに、鹿之助は晩成型の人間でもなんでもなく、将来的にも、そういう風になりそうにないのだ。

>熊:なあ八よ、鹿之助みたいな仕事人間をよ、色気付かせる手立てはねえもんかな? 一旦色気付いちまえばよ、もやしはもやしなりに、男らしく見えるようになるだろ?
>八:しかしよ、下手なことを覚えさせるとよ、女に狂っちまって勤めの方が疎(おろそ)かになっちまうしなあ。
>熊:他の男ならいざ知らず、鹿之助は、女に狂うことさえできねえさ。賭けたって良い。
>八:そうなのか? ・・・なんでえ、そんな「身持ちの良さ」こそが、立派な才能じゃねえかよ。
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