68.【う】 『瓜(うり)の蔓(つる)に茄子(なすび)は生(な)らぬ』 (2001/03/12)
『瓜の蔓に茄子は生らぬ』
ある原因からは、それ相当の結果しか生じない。子は親に似るもので、平凡な親から非凡な子が生まれる道理はない。
類:●蛙の子は蛙●血筋は争えない●親が親なら子も子●Like father, like son.
反:●鳶が鷹を生む
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鴨太郎の話はこうだった。
十手持ちの伝六のところで次郎吉という男を使っているのだが、その次郎吉が火消しの大八車に撥ねられて足を折ってしまった。歩けるようになるまで少なくとも半年は掛かる。ここのところ酔っ払いの喧嘩やら、上方からの荒くれ者やらで、世間が騒がしくなって。伝六1人では手が回り切らないので、当面の手伝いが必要だ。急場凌(しの)ぎでも構わない。

>鴨:一生涯続けて呉れとは言えねえけどよ、忙しいときゃ猫の手も借りてえってのが正直なところだ。
>与:あのう・・・
>熊:止せ、与太郎。お前ぇはちょっとの間黙ってろ。
>与:ですが・・・
>鴨:なんだよ。・・・ははあ、さっきの驚きようから察するに、なんか似たような話があったな?
>熊:まあな。だがよ鴨太郎。ちょいと話の成り行きがあるんで、太助のことから順番に話させて貰っても良いか?
>鴨:ああ、構わねえよ。こっちの話はそう期待してきた訳じゃねえからな。
>熊:そんじゃあ先ず、自棄(やけ)のやんぱちで乾杯させて貰おうか。太助の仲間入りにってことで良いな。

熊五郎が、鴨太郎を含む初お目見えの人間たちに、太助の職探しの一件を順序立てて説明した。
八兵衛が発案した、魚売りしながらの下っ引きということも話題に上った。

>八:どうだ? おいらの考えも捨てたもんじゃねえだろう。
>鴨:与太郎って、この与太郎のことかい?
>八:うーん。おいらの個人的な考えでは、もう少し、ほんの幾らか、はしっこい方が良いとは思うんだがよ。
>熊:だから、ほんの少しどころじゃねえだろう。
>与:あたしじゃ役不足でしょうか? ※誤用のご指摘をいただきました。こちら
>鴨:そ、
そんなことねえさ。そんなの、やってみなけりゃ分からねえ。
>熊:気休めは言うなよ。
>鴨:気休めじゃねえさ。下手(へた)に目付きの鋭い役人然とした奴だと、却(かえ)って警戒されて、直ぐに顔を覚えられちまう。下っ引きなんてのはあんまり表立たない方が良いんだ。
>熊:そうは言ってもなあ。
>八:それで? 幾らか給金は出るのかい?
>鴨:当り前じゃねえか。只働きだったら誰も引き受けちゃあ呉れねえよ。
>熊:だがよ、剣術も柔術も何にもできねえんだぜ。
>鴨:お前ぇたちなんか勘違いしてねえか? 下っ引きってのはだな、主に聞き込みが仕事で、ちゃんちゃんばらばらはしねえの。そりゃあ偶(たま)に岡引きが十手を振り翳(かざ)すこともあるが、大概は一緒にいる同心がこなすの。
>八:そうなのか? なんだかつまらねえな。
>熊:何がつまらねえだ。実際そうなるかも知れねえのはお前じゃなくて与太郎なんだ。お前ぇには意見を言う権利はねえの。
>八:そうか与太郎か。あ、与太郎、もう喋っても良いぞ。お前ぇの考えを言ってみろ。

>与:巧く出来るかどうか分かりませんが、やってみたいと思います。
>鴨:ほんとか?
>与:はい。いろいろ教えてください。
>熊:おいらは、やっぱり、止しといた方が良いんじゃねえかと思うけどな。
>咲:良いじゃない。やらせて上げなさいよ。聞き込みくらいならあたしも手伝って上げる。
>熊:こら、またそんなことを。
>咲:平気平気。危ない真似はしないって。それともあたしのことがそんなに心配?
>熊:誰がそんな。
>咲:決まり。ねえ、鴨太郎さん、良いでしょ。
>鴨:俺としては協力して呉れる人が1人でも多い方が助かるがな。父上の承諾付きじゃねえと頼めねえぞ。
>咲:はーい。・・・ねえねえ、あたしが手柄を立てたら父上の仕官に幾らかでも有利になるかしら。
>鴨:はは。俺が半端役人じゃなきゃあなるだろうが、いかんせん、落ち零れ者だからな。あんまり頼りにされちゃあ困るぞ。
>咲:可能性が少しでもあるんならそれで良いの。あたし、俄然頑張っちゃう。
>熊:おいおい。鴨太郎も鴨太郎だ。未成年の娘っ子を頼るようじゃ半端者も極まったな。
>鴨:今日日の女子供の社会進出には目を見張るものがある。あんまりお堅いことを言ってると時代に乗り遅れるぞ。
>熊:乗り遅れで結構。
>八:こんな堅物放っといて手打ちと行こうや。なんてったっておいらが考え出した事だからな。な、言ったろ、おいらに任せときゃ間違いはないって。

熊五郎1人が釈然としないままだったが、これで一応、太助の瓦版ねたの件も、鴨太郎の頼みの件も片付いた事になる。
いつもなら、安易な結論に一言ありそうなお夏も、今回は特に何も言わず、にこにこ笑っていた。
ほんとにおいらの考え方が遅れてるのかなと、熊五郎は考え始めていた。

>鴨:なあ、与太郎さんよ。明日、毘沙門さんの辺りに出張ることあるかい?
>与:はい。毘沙門様ならいつもだいたい昼時分に行きます。
>鴨:伝六に会わせるから境内を覗いちゃあ呉れねえか? 俺も一緒にいるから。
>与:分かりました。
>咲:あたしも行って良い?
>鴨:ああ良いとも。お咲ちゃんには特に期待してるよ。
>八:何といってもお武家の出だもんな。もしかして小太刀かなんか嗜(たしな)んでるとか?
>咲:真逆(まさか)。お武家の娘じゃなくて傘貼り浪人の娘だもん。
>熊:傘貼りの娘と青物売りか。・・・期待薄だな。
>咲:何を言うのよ。そんなの関係ないじゃない。
>熊:素人(しろうと)は所詮素人だ。生兵法は怪我の基(もと)って言うだろ。
>鴨:こと同心とか十手持ちだったらそうも言えるだろうが、実のところ、そういう者たちこそ下っ引きにはぴったりなのよ。2人は下っ引きになるべくして生まれてきたようなもんだ。
>与:そんな。言い過ぎですよ。
>鴨:はは。そうか。ちょいと言い過ぎたかもな。

>八:生まれと言やあよ、与太郎の親って何をしていた人なんだい?
>与:あまり人に話せたようなことじゃないんですが、吉原の会所の下で足抜けを捕まえるようなことをしてたみたいです。
>八:へえ、魂消(たまげ)たねえ。岡場所で引っ張る役じゃあ、まるで本当の岡引じゃねえか。
>熊:岡引の名前ってのはな、元々、そこから来てるんだよ。まったく、なんにも知らねえんだな。
>八:そんな頃生きてた訳じゃねえんだから、良いだろ。それにしてもよ、もしかすると、与太公のやつ、本当に化けるかも知れねえな。
>熊:どうかな。
>八:少なくとも、代々、大工をやってるおいらんとこより、良いだろ。(とんび)の子は鳶って言うだろ。あれ? 油揚げだっけ?
>熊:お夏坊、なんか言ってやって呉れよ。
>夏:根っからの大工である八兵衛さんが、絵草紙を斡旋(あっせん)したり、青物売りを捕り方に仕立てたり、況(ま)してや、博識(はくしき)をひけらかしたりするもんじゃないわね。八兵衛さんは立派な家を建てるから偉いんじゃない。他のことで認められようとしたって滑稽(こっけい)に見えるだけ。
>鴨:おいおい、何もそこまで言わなくたって・・・
>夏:大丈夫。八兵衛さんは、小さい事に拘(こだわ)らない大らかな質(たち)だもの。ね。
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※「役不足」は間違っています。この場面では、「力不足」が正しい言葉です。
・・・でも、前後に合うように以下のように(筆者の臍曲がりもあり)変えてみました。読み替えてください。

  >与:あたしには荷が重過ぎるってことですか? ・・・戻る