22.【い】  『石(いし)が流(なが)れて木(こ・き)の葉が沈(しず)む』 (2000/04/10)
『石が流れて木の葉が沈む』
ものごとが道理とは逆になっていること。
類:●西から日が出る
出典:新語−弁惑」「夫衆口之毀誉、浮石沈木」
出典:新語(しんご) 中国漢代。陸賈。成立年不詳。2巻12編。劉邦にせがまれて書いたもの。儒家の立場から、秦が滅び漢が興った理由を説明した書で、漢王朝成立の理論付けがなされた。仁政を主張し、刑法による統治を否定した。
人物:
陸賈(りくか) 中国、前漢時代の政治家、学者。生年不詳〜前179。高祖の全国統一や南越の服属に貢献して太中大夫となり、呂氏の乱に劉氏を助けて漢室を護持した。劉邦に向かって「馬上で天下を得ても馬上で天下は治められぬ」の名言を吐いた。著「新語」「楚漢春秋」。
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棟梁の女将(おかみ)・お雅は、3組来ている弟子たちと親戚たちとの、都合(つごう)30人分の雑煮を作るのに大童(おおわらわ)していた。
親戚のご婦人方が2人ばかし手伝っていたが、今一つ要領を得ないようで、ついつい叱責(しっせき)するような口調になっていた。

>お雅:あんた青物も碌(ろく)すっぽ切れないのかい。亭主に美味いもん食わしてないだろう。・・・ああ見ちゃあいられない、あたしがやるから、2人で餅でも焼いてな。焦がすんじゃないよ。
>あや:あの、わたしが青物の方やりますよ。
>雅:あんたは?
>あや:源五郎さんに付いてきました、あやと申します。
>雅:甚兵衛親方の長屋に越してきたっていう?
>あや:はい。えーと、人参(にんじん)は半月にしますか? 扇にしますか?
>雅:客に手伝わせる訳にはいかないよ。
>あや:手伝わせてください。ご相談したいこともありますし。
>雅:相談? 初めて会ったあたしにかい?
>あや:ええ。

>雅:どういうことだい、言ってみなよ。
>あや:押し掛け女房になりたいと思っているんです。
>雅:女房って、真逆(まさか)、源五郎のかい?
>あや:はい。
>雅:なんかの間違いじゃないのかい? あんたみたいな器量好しがあんなへちゃむくれのところに、何も好き好んで・・・
>あや:いけないでしょうか?
>雅:本気なのかい?
>あや:はい。
>雅:へーえ、驚いたね。それで? 源五郎も承知なのかい?
>あや:いいえ。こちらの一存だから「押し掛け」なんです。
>雅:成る程ね。・・・分かった。認めよう。あんたの包丁捌(さば)きもまあまあだしね。
>あや:有り難うございます。・・・ただ、ひとつ言っておかないといけないことがあります。
>雅:もう大概(たいがい)のことじゃ驚かないよ。
>あや:前の亭主の1周忌が済んでからということでも良いでしょうか?
>雅:委細があるんだね。どうせその様子じゃ、そういうことも源五郎に話してないんだろう?
>あや:中々言い出し難(にく)くて。
>雅:いつ話すつもりだい?
>あや:桜の花の頃に。
>雅:分かった。全面的に認めよう。それで? うちの宿六は知ってるのかい?
>あや:いいえ、まだ何も。
>雅:そりゃあ良い。・・・しかし、世も末だね、女が平気で押し掛け女房になろうってんだからね。そのうちお天道様が西から上るかも知れないねえ。
>あや:女将(おかみ)さんから駄目だって言われても、来るつもりではいたんですけど。
>雅:見上げた根性だ。それと、女将さんなんて他人行儀な呼び方はお止(や)め。今日から親子だ。源五郎が何か悪さでもしたらあたしんところにおいで。・・・あんたらも聞いたかい? 少しは見習いなよ。ほら、焦げてるじゃないか、しっかりおしよ。

>あや:お椀(わん)はいくつくらい出しときます?
>雅:30もあれば足りるだろう。それより、ちょいと味見をしてみな。うちは力仕事をしてるから味付けは濃い目、塩辛けりゃ味付けなんか二の次だっていうんだから。作るもんへの配慮なんかまったくありゃしない。それから、1つ教えとくけど、源五郎はああ見えて並外れた猫舌だからね、なかなか箸を付けないからって一々臍を曲げてちゃやってられないよ。
>あや:有り難うございます。良いこと聞いちゃいました。

程なく雑煮が出来上がった。
お雅とあやはてきぱきと、手伝いの2人はおどおどと椀を運んだ。
三吉は目の前に出された途端齧(かぶ)り付くように食べ始めて、あっという間に平らげ、お雅にお替わりを願い出た。
源五郎は三吉の凄まじい食べっぷりを誉めちぎるばかりで、案の定、食べ始めようともしない。
どうやら、湯気の立っているうちは箸を付ける気もないらしい。
あやとお雅は目を合わせてにっこりと笑みを交わした。

>棟梁:なんだい、なんか良いことでもあったのか?
>雅:いいえ、別に。美味しく出来てるでしょう? お前さんもお替わりしたら?
>棟:俺は良いよ。お節(せち)で腹が一杯だ。
>雅:源五郎、味はどうだい? なんだい箸も付けてないのかい。いらないのかい?
>源:いや。ちゃんと食うよ。
>雅:残したりしたら承知しないからね。
>源:なんだよ、今日はやけに絡(から)むな。
>雅:客に料理させといて残したりしたら罰が当たるだろうよ。あやさんの気持ちを粗末(そまつ)にするんじゃないよ。有り難くいただきなよ。
>源:分かってるって。
>雅:本当になーんにも分かっちゃいないんだね、この唐変木は。

そう言うと、お雅は高笑いしながら部屋を出ていった。

>五六:唐変木って、あっしのことじゃないですよね。ねえ八兄い、違いますよね?
>八:唐変木を親方に譲るとなると、お前ぇは「盆暗(ぼんくら)」とか「碌(ろく)でなし」になっちまうな。
>五六:勘弁してくださいよ。

>四:・・・女将(おかみ)さんとあやさん、2人で何を話してたんでしょうかねえ?
>八:なんでえ四郎、お前ぇ寝てたんじゃねえのか?
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