24.【い】  『石(いし)の上(うえ)にも三年(さんねん)』 (2000/04/24)
『石の上にも三年』
冷たい石の上でも三年座り続ければ温(あたた)まるという意味から、仮令(たとえ)辛くても、耐えていれば、やがて報(むく)われるということ。
類:●待てば甘露(海路)の日和あり転石苔を生ぜず●Perseverance prevails.
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八幡様も大変な人出だった。男の子を連れた夫婦も然ることながら、若い男女の2人連れが矢鱈(やたら)に目立っていた。
世の若者たちには、八幡様が何の神様なのかなど、どうでも良いことなのだろう。

>源:今日日(きょうび)の若いもんたちゃ何を考えてるのかね、これじゃあ八が縁結びと勘違いするのも仕方のねえことだな。
>熊:天下泰平ってことですかね。
>八:言ったでしょう? 近頃は若いもんにとっちゃここは人気(にんき)の場所なんですよ。
>源:何がどうなったら八幡様と若い男女が繋(つな)がるんだか。
>咲:親方知らないの? ここはね、逢引きの名所になってるのよ。
>源:逢引き? 神社でか? 気味悪くねえのかね?
>咲:それが良いんじゃない。藪(やぶ)の方で物音がしたりしたら、きゃあっとかいって飛び付けるんだもの。
>源:ふしだらな話だな。
>熊:お前ぇ妙に詳しいな。さては誰かと逢引きに来てるんだな。
>咲:気になる?
>熊:別に気にしてる訳じゃねえよ。唯(ただ)の野次馬根性だ。
>咲:友達の玉ちゃんの知り合いがね、人目を忍(しの)んで会ってるんですって。お月様が細ければ細いほど良いんですって。なんでも、
道ならぬ恋らしいわよ。
>源:なんだいその「道ならぬ恋」ってのは。
>咲:相手の人が妻子持ちなんですって。
>源:益々もってふしだらな話だな。
>八:そういうのがいるから、真っ当なおいらまで回ってこねえんだよな。
>熊:違ぇねえ。
>八:お前にはお咲坊がいるだろう。
>熊:まだ言ってやがる。大概にしとけよ。
>八:怒られると益々悪乗りしちまうよーだ。

>咲:八つぁんには、今度、あたしの友達のお姉さんを紹介してあげる。
>八:ほんとかい? どうやら、
おいらにもやっと春が巡ってきたらしいぞ。
>熊:おい、良いのか? こいつ本気にしちまうぞ。
>咲:任(まか)しといて。こう見えても顔は広い方なの。それに、八つぁんって可愛いんだもん。なんだか放っとけないって感じ。
>熊:好い年扱(こ)いた大人に向かって可愛いもねえだろう。
>八:良いの良いの。誉め言葉なのに違いはねえんだからな。
>咲:健康で明るい人と、しっかりした働き者と、おしとやかな器量好しと、どれが良い?
>八:うーん迷うな。全部纏(まと)めて面倒見たいもんだな。
>咲:欲張っちゃ駄目よ。考えといてね。
>熊:おいらにも紹介して呉れねえか?
>咲:熊さんは駄目。
>熊:何でだよ。
>咲:浮気っぽい人は紹介しないことにしてるの。
>八:熊はお咲坊一筋で行っとくべきだな。それじゃあ、おいらはお先に行きやすよ。親方の祈願どころじゃなくなってきやしたんで。お札(ふだ)お札。縁結び縁結びっと。

八兵衛はひょいひょいと器用に人ごみを掻き分けてお札所の方へ去っていった。
源五郎は、そんな飾らない八兵衛を好意的な目で見送った。

>源:五六蔵、三吉、四郎。お前ぇたちにゃ浮いた話はねえのか?
>五六:へい全く。
>三・四:からっきしでさあ。
>源:随分きっぱり言っちまうんだな。その気がねえのか?
>五六:気持ちも行動も十分なんですが、結果の方がまったく良くありやせん。
>四:肩で風を切っちまってやしたからねえ。
>三:お咲ちゃん、あっしたちにもなんか良い話を持ってきてお呉んなさんな。
>咲:まだ駄目よ。弟子入りしてからまだ三月(みつき)にもならないでしょう? まだ信用できないの。
>五六:信用してくださいよ。親方も黙ってねえで口添えしてくださいな。
>源:俺も本当に信用してる訳じゃあねえんだぜ。
>五六:そんな殺生(せっしょう)な。
>源:会ったその途端に信じられる奴も中にはいるが、お前ぇたちには前の罪(つみ)があるからな。
>五六:もう償(つぐな)いやしたでしょう?
>源:罪という奴は償っただけじゃ済まねえんだよ。償いの後にはな、禊(みそぎ)ってえ何年も掛かるお勤めがあるんだ。
>五六:いってえ何年くらい禊いだらいいもんでやすかね。
>源:3年ぐらいだな。
>五六:鋸(のこ)や鑿(のみ)を持たして貰えるのと同じ頃ってことですかい?
>源:そういうこった。分かったら「1日でも早く禊が済みますように」ってお祓いでもして貰ってこい。
>五六:へい。分かりやした。・・・おい、お前ぇらも行くぞ。

>源:熊。俺はちょいと商売繁盛の札を買ってくるから、お前ぇはお咲ちゃんの傍(そば)に付いててやれ。
>熊:へい。いってらっしゃいやし。

そうして源五郎までも去り、熊五郎と咲の2人だけが残った。
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